マウスに遺伝子操作を施しラットの脳を肥大化させ、霊長類のような形状にさせることにドイツのマックス・プランク分子細胞生物学・遺伝学研究所が成功しました。

The transcription factor Pax6 is known to be highly expressed in primate, but not mouse, BPs. Here, we demonstrate that sustaining Pax6 expression selectively in BP-genic apical radial glia (aRG) and their BP progeny of embryonic mouse neocortex suffices to induce primate-like progenitor behaviour.

霊長類とマウスの脳の違い

同じ哺乳類でありながら、霊長類と他の動物、たとえばマウスなどはその脳の構造は大きく異なります。

生物の脳は大きく分けて『脳幹』『小脳』『大脳』の三つで成り立っていて、その大きさだけが違っています。哺乳類の脳は小脳と大脳が発達しており、とりわけ霊長類は大脳新皮質が発達していることが知られています。

遺伝子の特定

こうした違いはどのように生まれてくるのでしょうか。発生の過程において、脳に限らず、細胞は分裂を繰り返すことで数を増やすことができるのですが、大脳新皮質になる前の中間前駆細胞という細胞が人間の場合、何度も細胞分裂をすることができるのに対してマウスのそれは一つにつき一度しか分裂しない、つまりその数を増やすことができません。

研究者は中間前駆細胞の遺伝子を調べ、人間にだけ活性化が見られるPax6という遺伝子を発見し、この遺伝子が霊長類とマウスの脳との違いを生み出す鍵ではないかと予測を立てました。

遺伝子操作によりPax6が活性化するマウスを作り出したところ、中間前駆細胞が何度も分裂し、大脳新皮質の量が増加したとのことです。研究者はさらなる研究を重ね、人類の脳がなぜここまで大きくなったかの解明をする予定です。

人間のような知能を持つ新生物は可能か

人間の脳が大きくなった仕組みを解明しようとしている、そしてマウスの脳を大きくすることができた、と言われると人間のような思考をする生物の誕生を想像せざるを得ません。

大脳新皮質は合理的で分析的な思考や、言語機能をつかさどる分野といわれています。今回のマウスが他のマウスと比べてどう行動に変化が起きたかはわかりませんが、脳の体積の問題はあれど、なんらかの外科的手術、あるいは頭蓋骨の肥大化さえも遺伝子によって操作することができれば、いずれは人間のような脳の大きさを持った生物を作り出すことは可能でしょう。

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人間のような脳を持った生物

これはイヤだ。

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とはいえ、それは見た目だけの問題ですが。

たとえば賢い動物の代表格として挙げられがちなイルカの脳の容積は人間よりも大きいですが、大脳新皮質の厚さは人間の半分ほどしかなく、密度も薄いことがわかっています。肝心の賢さも鳴き声に声紋のようなものがあり、それによって個体認識をおこなっている程度で、あまり他の動物と比べて賢いかと問われると疑問点が多い生き物です。

dolphin

ちなみにイルカ漁反対の長として知られるシーシェパードは海洋生態系の保護のためにイルカ漁に反対しているのであって公式サイトを見る限り特に賢さについては触れていない。

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さらに大脳新皮質が大きければ賢いか、といわれると実は人間よりもハリモグラの方が大脳新皮質が大きいことがわかっており、大脳新皮質が大きければ賢いともいえないのです。

知能には脳の大きさが強く関わっているけれども、正しく比例しているわけではない、というわけです。人間のような知能を持った生物を作り出すことができるようになるのは、まだまだ先の話のようです。

残念のようなほっとしたような気がします。

rat

補足:人間のような知能を持つマウスが誕生した遠未来

人間のような知能を持つマウス(以下:人マウス)を作り出すことは理論的には不可能なことではないので、そのことに想像を巡らせてみるのも面白いだろう。現在マウスなどが実験動物として使われがちな主な理由は知能が低いという理由からではなく、繁殖能力が高く世代交代が早いため、実験に利用しやすいためだ。人間が言語を扱えるようになるまでの時間を考えると人ラットが言語を扱えるようになるまでどれだけの時間がかかるか、またそれまで寿命が持つか、という部分に課題や疑問はあるが、『人間に非常に近い脳を持っている繁殖能力の高い動物』として人マウスが実験動物に多用されるかもしれない。少々恐ろしい未来だ。

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REFERENCE:

Sustained Pax6 Expression Generates Primate-like Basal Radial Glia in Developing Mouse Neocortex

Sustained Pax6 Expression Generates Primate-like Basal Radial Glia in Developing Mouse Neocortex

http://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.1002217

脳の進化 | 脳について | 理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)

http://www.brain.riken.jp/jp/aware/evolution.html

クジラやイルカの知能

http://luna.pos.to/whale/jpn_zat_intel.html

イルカはあなたが思うほど賢くない – WSJ

http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052702303745204579275530925282104

理研CDB – 科学ニュース

http://www.cdb.riken.jp/jp/04_news/articles/080918_Molecularbasis.html