生命の発生は私たちが思っているよりもずっと簡単なもの、なのかもしれません。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の調査により41億年前の生命の痕跡が発見されました。

UCLA geochemists have found evidence that life likely existed on Earth at least 4.1 billion years ago — 300 million years earlier than previous research suggested.

今まで見つかっていた生命の痕跡で最も古いものは2013年に東北大の調査により発見された38億年前のものでした。今回の発見は生命が発生したと思われる時期を3億年も早めたものとなります。地球が生まれたのが約45.4億年前と言われているのでわずか4億年と少しで生命が発生したことになります。

生命の痕跡とは

さてさて、この『生命の痕跡』とやらですが、恐らく多くの人が想像されるであろう化石とは少々異なったものとなっています。人類が発見した最古の化石は35億年前のものです。41億年前といえば地質時代でいうところの始生代の前、冥王代にあたり、化石どころか岩石でさえほとんど見つかることのない時代です。そんな時代の『生命の痕跡』をどのようにして見つけ、それが『生命の痕跡』であるとわかるに至ったのでしょう。

ジルコン

調査した場所はオーストラリアのジャックヒルズと呼ばれる鉱山です。この場所は2001年に44億年前の鉱物が発見された場所です。発見された鉱物の名前はジルコンといい、風化変質に対して強く、そのため44億年もの長い間、化学的な変質を受けずに形を保っていたようです。他の鉱物と同様にジルコンは不純物を含んでいることが多くあります。研究者はその不純物から『生命の痕跡』を見つけたのです。

少しばかり話は逸れて、ジルコンは非常に屈折率の高い鉱物であり、ダイヤモンドと同じような輝きを放つためダイヤモンドの代用品として扱われることが多くあります。代用品という少しばかり不名誉な呼ばれ方をされることもあるジルコンですが、ジルコンもれっきとした宝石であり、宝石であるがゆえ、石言葉があります。ジルコンの石言葉は『やすらぎ』。冥府の神ハデス(Hades)から名前が取られた冥王代(Hadean)の時期の、生命の痕跡が眠る鉱物の石言葉が『やすらぎ』。偶然であることに疑いようはないですが、何か畏敬の念のようなものを覚えます。

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まるで現実と神話が入り混じるような

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グラファイト

研究者たちが注目した物質はグラファイトです。ジルコンにつられて横文字にしてみましたが日本語に直せば黒鉛、いってしまえば鉛筆の芯です。黒鉛は炭素原子だけで構成される物質なので通常、有機化合物ではなく無機化合物に分類されますが、生体に含まれる有機化合物が数百万年という長い月日を経て外部からの圧力などにより分解され黒鉛と化すことがあります。

しかし黒鉛があるからといってそれが必ずしも生命の痕跡であるとは限りません。有機化合物のみならず二酸化炭素やメタンなどの無機化合物からも黒鉛が生成されることがあるのです。

生物由来の黒鉛も非生物由来の黒鉛も同じ『黒鉛』のはずなのに、研究者はどうしてジルコンに含まれた黒鉛が生命の痕跡であるという結論に至ったのでしょう。

炭素安定同位体組成比

唐突ですが少しばかり高校の授業を始めます。

原子は陽子、中性子、電子の三種類の粒子によって構成されており、そのうち原子に含まれる陽子と中性子の数の和で原子の重さの指標となる原子量が決まります。炭素原子は6つの陽子と6つの中性子を持っているため、原子量は12になります。

しかし、まれに中性子をもう一つ余分に持っている、原子量13の炭素が存在します。これを同位体といいます。原子量13の炭素原子(以下13C)は原子量12の炭素原子(以下12C)に比べて数が少なく、全炭素原子中12Cが99%を占め、1%が13Cであるとされています。

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天然に存在している炭素の同位体には原子量14の炭素(以下14C)も存在する。ただ、14Cは13Cよりも遥かに数が少なく100億分の1%程度しか存在しない。

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なんだか面倒な話をしましたが要するに炭素の中にはたまに普通より重い炭素原子があるという話です。

さて、そんな重い炭素原子ですが、生命の体内に含まれていた炭素はそうでない炭素に比べて重い炭素原子の数がやや少ないことがわかっています。つまり生物由来の黒鉛の方がわずかに軽いのです。記者が大まかに計算したところによると1立方メートルの黒鉛があったら9グラムくらい軽いようです。1立方メートルの黒鉛の重さは2トン以上なので本来だったらあってないようなわずかな差です。

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本当に大まかな設定の上での計算なのであまり真に受けないよう。

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研究者はジルコン内部に入っていた黒鉛の重さを測り非生物由来のものよりもわずかに軽いことを確認し、この黒鉛が生物由来のもの『生命の痕跡』である可能性があると結論づけたのでした。

それで、3億年早いって何がすごいの?

こうしてこれまでわかっていたよりも3億年早い生命の痕跡が発見されたわけですが、そう言われてもなんだか大した違いがないように思えないでもありません。地球が誕生してから4億年で生命が誕生しようと7億年で誕生しようとあまり大差がないような気がしてきます。研究者の熱意には感心しますが、それって何かそんなにすごいことなの?という気がしてきます。いえいえ、それが結構すごいことのようです。

後期重爆撃期

41億年前から38億年前の期間は後期重爆撃期と呼ばれる地球や月に隕石が高頻度で落ちていた時期です。今回発見された痕跡が41億年前で、以前東北大によって発見された痕跡が38億年前。41億年前に生命が生まれたとして、後期重爆撃期の度重なる隕石の衝突にによって全て死滅したいたとしたら後期重爆撃期の終わりの38億年前に再び生命が1億年たらずのわずかな時間で新たに生まれた可能性があるわけです。つまり生命は一度滅びてまた生まれたかもしれないのです

パンスペルミア説

もし生命が後期重爆撃期に滅びていなかったとしても、後期重爆撃期の始まりとされる時期に生命の痕跡が見つかるというのはやや示唆的な数値です。隕石が降り始めたのが41億年前、最古の生命の痕跡が発見されたのも41億年前。このことから生命は隕石に乗って宇宙からやってきたのではないか、と考えてしまうのも無理はないでしょう。

生命が宇宙からやってきたのではないかという仮説は昔から存在しており、パンスペルミア説と呼ばれます。少々突拍子もない仮説に思われるかもしれないですが、玄武岩に入れた細菌が宇宙空間から地球に落下させても生命を維持し繁殖をしたことが実験によって確認されています。この細菌があらゆる地球生命の起源、というわけではないでしょうけれども、少なくとも隕石に乗って細菌が地球に到達することが不可能な話ではないという証拠になるでしょう。

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懐疑的な意見も

本当に隕石に乗って生命がやってきていたとしたらすごい話ですが、今回の発見には懐疑的な意見を持つ人もいるようです。コロラド大学のトーマス・マッコロム氏は「そうあってほしいというバイアスのためにデータの取り方を間違えているのではないか」というようなことを述べています。

たしかに、こういった研究には実験最中の混入物などにより不正確なデータが出力されたりすることが多々あります。44億年前に見つかったジルコンの中にダイヤモンドが入っていたというニュースが以前ありましたが、そのダイヤモンドは調査の過程でダイヤモンドカッターが研磨されて混じり込んでいただけだったことがわかっています。地質学に限らないでしょうが、実験にはミスやバイアスがつきものです。

それでは結局、41億年前から生命はいたのか、後期重爆撃期を生命は生き延びたのか滅んだのか、生命は宇宙からやってきたのか。

個人的な意見を言ってしまうなら、どっちでもいいような気がします。

いえいえ、別に投げやりなことを言っているわけではありません。既にこういった研究が充分に面白く有意義なことだからです。生命はいつ生まれたのか、どこから来たのか。40億年近くも昔、地球は、生命はどのような姿であったのか。その答えを探るための鮮やかな実験方法、そこから現れる玉石混交の証拠と仮説。否が応でも想像を掻き立てられ、知的好奇心を揺さぶられます。

それがどんな結果であろうとも(もちろんその真偽をよく見極め)、予想と合致していたらそれを喜び、予想と合致していなかったらまた新しい事実を知れたことを喜び、知ったことでまた新たな想像と謎に出会えることを喜ぶ。それでよいのだと思います。ただ知りたい。学問とは、そういうものだと思います。

REFERENCE:

Potentially biogenic carbon preserved in a 4.1 billion-year-old zircon

Potentially biogenic carbon preserved in a 4.1 billion-year-old zircon

http://www.pnas.org/content/early/2015/10/14/1517557112

Life on Earth likely started 4.1 billion years ago—much earlier than scientists thought

http://phys.org/news/2015-10-life-earth-billion-years-agomuch.html

グリーンランドで発見された最古の生物活動の痕跡 掛川  武

http://www.jrias.or.jp/books/pdf/201407_TRACER_KAKEGAWA.pdf

More Evidence Life Could Have Come From Beyond | Popular Science

http://www.popsci.com/more-evidence-life-could-have-come-beyond

環境科学における炭素同位体の利用 – やわらかサイエンス|地層科学研究所

http://www.geolab.jp/science/2009/10/science-059.php

Evidence from detrital zircons for the existence of continental crust and oceans on the Earth 4.4 Gyr ago

http://www.geology.wisc.edu/~valley/zircons/Wilde2001Nature.pdf

パンスペルミア説 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%AB%E3%83%9F%E3%82%A2%E8%AA%AC

炭素 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%82%AD%E7%B4%A0

後期重爆撃期 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%8C%E6%9C%9F%E9%87%8D%E7%88%86%E6%92%83%E6%9C%9F

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http://www.msfactory-m.com/11p_story.html#012