自分の子どもには、自分が親からされたことを同じようにしてしまう、虐待も例外ではない……。これは、ときに公で語られ、ときには半ば噂のようにして伝え広まった『定説』だ。今回、この説を裏付けるかのような新発見が報告された。幼児虐待やネグレクトを受けた者は、大人になっても自分の『衝動』をコントロールできないというのである。

The scars of childhood abuse and neglect affect adults’ brains for decades to come – including their ability to process and act on information both quickly and accurately, new research suggests.

『衝動』のコントロール実験

『GO/NO GO課題』と呼ばれるテストがある。たとえば青いライトが点いたときはゴム球を握る、黄色いライトが点いたときはゴム球を握らない、といったルールに基づいたテストを次々行うものだ。このテストは脳の発達状態を調べるためのもので、すなわち脳神経系のアクセル(GO)とブレーキ(NO GO)がわかるのである。

ミシガン大学の研究チームは、双極性障害(躁うつ病)を持つ者と持たない者で、このテストの結果がどう変わるかを調査している。より衝動的な行動に出るのはどちらか、不正確な判断をするのは……。

迅速かつ正確な判断が求められる状況は日常のなかにもあふれている。

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しかし結果はチームの予測を裏切るものだった。双極性障害の有無は、テストの結果に影響しなかったのである。しかしその代わりに、『衝動的な反応』を示した者にはある共通点があったという。

テストの参加者320人中、134人が身体的虐待、精神的虐待、ネグレクトなど幼少期のトラウマを報告していた。双極性障害とトラウマの両方を持つ者は、双極性障害のみを持つ者に比べて、テストの結果がもっとも芳しくなかったのである。その一方で、トラウマのみを持つ者も良い結果を出すことができなかった。

参加者に薬物乱用や双極性障害以外の精神疾患はみられなかった。

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トラウマと精神疾患の関係

研究リーダーのデビッド・マーシャル博士は、これまでのメンタルヘルス研究が『衝動』や『抑制』のコントロール機能にほとんど言及してこなかったことを指摘する。博士によると、幼少期のトラウマは、自己監視や目標志向行動(ある目標に向けて積極的に行動すること)に関する――通常は大人になるにつれて育ってくる――機能に強い影響を与えるという。

またデビッド博士は、幼少期のトラウマが、双極性障害の有無にかかわらず『衝動』のコントロールに影響していたことから、「(『衝動』のコントロールは)双極性障害とは別の問題で、むしろ幼少期の経験に強く関係している」と述べている。そして、この結果は『トラウマがいかに精神疾患のリスクを高めるか』という考え方を変えるという。トラウマのあとに脳が変化しているかもしれないという点で、むしろトラウマが精神疾患のリスクを測る指標にもなりうるのだ。

いずれにしても、双極性障害を持つ者の継続的治療や、トラウマによる影響の早期発見が重要であることは間違いない。デビッド博士は「幼少期のトラウマがメンタルヘルスに長期的影響を与えている人々を、もしかすると有効な治療法に導けるかもしれない」と述べている。また治療の方法は異なるものの、認知行動療法は長らくきちんと対処されてこなかった幼少期の問題にも有効だという。

認知行動療法

面接とホームワークによる治療。思考・分析力の改善、問題解決法の獲得が期待できる。

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Anne Graham

なお研究チームは、今回のテストで幼少期のトラウマを報告した者を定期的に調査するなど、時間をかけて研究を継続していく予定だ。

REFERENCE:

Childhood trauma associated with worse impulse control in adulthood, U-M study finds

Childhood trauma associated with worse impulse control in adulthood, U-M study finds

http://www.uofmhealth.org/news/archive/201601/childhood-trauma-associated-worse-impulse-control-adulthood

「GO / NO GO課題」(1) – 横浜ハートの相談室 黒木カウンセリング・ルーム

http://www.kokoroki.jp/go-no-go課題-1/

認知行動療法とは | 認知行動療法センター

http://www.ncnp.go.jp/cbt/about.html