ヤミーニ・カラナムさんはインディアナ州に住む26歳の博士課程の大学生です。彼女はある日、自分の体に異変が起きたのを感じました。教室で一人の人が話しているはずなのに、声が二人に聴こえるのです。症状はますますひどくなるばかりで彼女は病院へ向かいました。レントゲンの結果、彼女の脳には腫瘍があることがわかり、ニューヨークで腫瘍を取り除く手術を行うことになりました。

手術をしたところ、彼女の脳から出てきたのは、人の髪の毛や歯、彼女の双子のかけらといえるものでした。

An Indiana woman undergoing surgery in Los Angeles to remove a tumor experienced a twist worthy of a sci-fi plot when doctors discovered an embryonic twin in her brain.

手術を終えたヤミーニ・カラナムさん

幸いにも腫瘍は良性のもので手術も成功し「邪悪な双子の妹が26年間、私を苦しめ続けていた」と語った。

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手術を執刀したHrayr Shahinian医師

「双子は邪悪ではない。良性だった」と腫瘍ジョークを飛ばした。

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今回の彼女のように体の中から髪や歯が出てくる病気は奇形腫と呼ばれます。奇形腫は原始生殖細胞の異常によって起こるとされており、脳以外にも精巣や卵巣など、正中線上の部位に発生しやすい病気です。先天性でさえなければ自分の体から突然とんでもない場所から髪や歯が発生するというわけなので、生殖細胞から生まれるということからも双子というよりは、どちらかというと息子や娘と表現したほうが近いかもしれません。

ラットiPS細胞由来の膵臓を持つPdx1 KOマウス個体

分化能力の低いiPS細胞は奇形腫を発生させる危険性があったが、2013年に、高橋和利講師や青井三千代研究員らによって、神経細胞への分化能力の高いiPS細胞株を簡単に選別する方法を開発されている。

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多能性幹細胞を用いてマウスの体内でラットの膵臓を作製することに成功|中内幹細胞制御プロジェクト

奇形腫という言葉や、体の中に自分以外の何かがいる、という現象は『ブラックジャック』のピノコを思い起こさせます。しかし、奇形腫によって体のパーツがほとんど揃っているという可能性は非常に低く(少なくともそのような症例は未だにない)、作中でもピノコとピノコが取り出された女性の関係は姉妹とされているので、奇形腫というよりは寄生性双生児や胎児内胎児(fetus in fetu)に近いでしょう。

マンガ『ブラックジャック』より、ピノコ。

英語版のWikipediaのブラックジャックの項には彼女が寄生性双生児であると書かれており、別の項にはピノコが胎児内胎児であったと書かれている。

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©Tezuka Productions Company, Limited

寄生性双生児
一卵性双生児が受精卵の分裂の段階で分化が完全になされなかったためにつながったまま生まれてしまう状態の一種。双子の片方が成長ができずにもう片方の双子に取り込まれてしまうバニシング・ツインと双方がほぼ完全な姿で生まれるがどこか体の一部分で繋がっている結合双生児の中間といえる。

胎児内胎児
寄生性双生児でふれたバニシング・ツインがきちんと行われず双子の体内に胎児のままの双子が残っている状態といわれているが、奇形腫が極度に発達したものとする説もある(後述)。

先ほど少しだけ触れましたが、奇形腫には後天性のものと先天性のものがあります。今回の彼女の場合、奇形腫が先天性のものだったのか後天性のものだったのかはわかりませんが、先天性のものだった場合、胎内にいる状況で新しい生命の一部が生まれているわけなので、これもある意味でいえば双子であったといえるかもしれません。

実際、現状では胎児内胎児と複数の器官を持った奇形腫は、左右対称性があり脊柱を形作っているか否かという程度でしか現状では区別されておらず、そもそもにして胎児内胎児が奇形腫のカテゴリに含まれるのか、ということさえも未だに議論が交わされているようです。どこからどこまでが双子であったかということを決めるのは生命の定義を決めることができないように不可能なのかもしれません。奇形腫、あるいは胎児内胎児を生命になれなかったものとみなすか、ただの病気であったかを決めるのは、個人の裁量に任せるしかないのでしょう。

ちなみに体に四本の腕が生えてしまった寄生性双生児や、頭蓋骨の上にもう一つ脳を含んだ頭が付いて生まれてくる頭蓋結合双生児などでも、手術によって切り落とされることが多くある。

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阿修羅 – Wikipedia

タチアナとクリスタ

生物学的な生命の定義はひとまず置いて、私たちが実際に生きていると思う存在について考えることにしましょう。カナダのブリティッシュコロンビアには、タチアナとクリスタという一組の結合双生児がいます。

タチアナとクリスタ

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Aynı beyni paylaşıyorlar! – CNN TÜRK

結合双生児
卵細胞の分裂の段階でしっかりと分化されずに体の一部が結合しながら生まれてくるという、先に述べた寄生性双生児と似たものだが、結合双生児の場合、両者が頭脳や身体を持ち、臓器を共有、あるいは両者がともに代謝のための臓器を持っている場合が多いのが特徴。結合したままの状態で生存している例がいくつもあるため、寄生性双生児などに比べ、ニュースやドキュメンタリーなどのテレビ番組や日本のマンガでも結合双生児が取り上げられることが多い。

萩尾望都『半神』

萩尾望都による、結合双生児として生まれた姉妹について姉の視点から描いた短編マンガ。

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©萩尾望都/小学館

タチアナとクリスタは頭部と頭部がつながって生まれてきましたが、彼女たちは単純に肉体だけでなく、神経的に脳の一部が結合しています。クリスタの手をつねればタチアナも泣き、タチアナの目を閉じてもクリスタが見ていれば何が起きているのかをタチアナも理解することができます。それでも、繋がっている脳は一部でしかないのでタチアナとクリスタは独立した人格を有していて、タチアナは気が弱く、クリスタは気が強いそうです。彼女たちのどちらかが寄生した双子、ましてや奇形腫などと呼ぶ人はいないでしょう。誰もが二人とも独立して意思を持って生きている、と誰もが思うはずです。

奇形腫は原始生殖細胞から作られるので、歯や髪以外にも眼などの複雑な器官が形成されることがあります。もしヤミーニさんの頭の中で発生した奇形腫が脳であったなら、つまり、本当に頭の中に意思を持った双子がいたとしたら、その時はどうなっていたのでしょうか。やはり『邪悪な妹』として切り離されていたのでしょうか。

REFERENCE:

iPS細胞の課題|iPS細胞基本情報|もっと知るiPS細胞|CiRA(サイラ) | 京都大学 iPS細胞研究所

iPS細胞の課題|iPS細胞基本情報|もっと知るiPS細胞|CiRA(サイラ) | 京都大学 iPS細胞研究所

http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/faq/faq2_2.html

胚細胞腫瘍 germ cell tumors | 脳外科医 澤村豊のホームページ

http://plaza.umin.ac.jp/sawamura/pediattumor/germ/

奇形腫 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%87%E5%BD%A2%E8%85%AB

Parasitic twin – Wikipedia, the free encyclopedia

http://en.wikipedia.org/wiki/Parasitic_twin

Fetus in fetu – Wikipedia, the free encyclopedia

http://en.wikipedia.org/wiki/Fetus_in_fetu

Teratoma – Wikipedia, the free encyclopedia

http://en.wikipedia.org/wiki/Teratoma

カナダの頭蓋癒合児-クリスチナとタチアナ: 院長の独り言

http://onodekita.sblo.jp/article/68784367.html