イソップ童話に『ウサギとカメ』という話があります。ウサギとカメがかけっこをしたところ、油断して居眠りしたウサギをよそに、カメは地道に前に進んでいて、最後には先にゴールしている……という物語です。一方で、古代ギリシアには驚異の足の速さを誇るアキレスという青年がいました。しかし彼の脚ですらカメには追いつけない……という話もあります(アキレスと亀)。

今回は、私たちより先に出発して、もしかすると私たちが永遠に追いつけないかもしれない1匹のカメを紹介しましょう。御年183歳のゾウガメ、ジョナサン氏です。

His wrinkly skin, cataracts and difficulty swallowing are common enough in old age. But Jonathan had been ambling around for a century before today’s pensioners were born.

わたしです。

183年ぶんの貫禄。

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現在の生活

ジョナサン氏が現在生活しているのは、南大西洋のイギリス領セントヘレナ島にある知事公邸です。訪問者は、敷地内の『観賞用の廊下』から彼の姿を見ることができます。

セントヘレナ島はここ。

南アメリカ大陸とアフリカ大陸のあいだ。

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英国長官公邸。

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World Cruise 2013

現在ジョナサン氏は、マートル氏とフレドリカ氏、そしてデヴィッド氏とエマ氏の4匹とともに暮らしています。その生活の様子を見てみることにしましょう。

のそのそ歩く。

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左は同名の獣医、ジョナサン氏。

毎週日曜にエサを持ってくる。

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もぐもぐ食べる。

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ただし獰猛。

ジョナサン氏(獣医のほう)は親指がほぼない。

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食後に首のマッサージ。

撫でられるのがお気に入りだそう。

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ただし獰猛。

この表情をどう受け取れば……。

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しかし、ジョナサン氏も183歳と老齢のため、その身体は確実に弱ってきています。しわをたくさん刻んだ皮膚は見た通りですが、その目はすでにほぼ見えておらず、また食べ物を飲み込むのも難しいといいます。いくら亀とはいえ、長く生きていればあちこちガタが来るんですね……。

ジョナサン氏の生い立ち

そんなジョナサン氏、実はその生年が正確にわかっていないため、現在『少なくとも』183歳以上だということです。つまり、遅くても1832年には、彼はこの世に生を受けていました。

日本では葛飾北斎がこんな絵を描いていた時代です(1831年頃)。

『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』。

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当時のセントヘレナ島は、イギリス東インド会社領となっており、首都・ジェームズタウンはその経済の中心地でした。絶海の孤島だったこの場所には、多くの奴隷や戦争捕虜が送り込まれ、かのナポレオンも、1815年から1821年の死去まで幽閉されていたようです。

ジョナサン氏もまた、そんな情勢下でセントヘレナ島に流されてきたのでした。彼の故郷はアフリカ大陸の東側、セイシェルです。

セイシェルはここ。

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なぜジョナサン氏がセントヘレナ島に流れ着いたのかはわかりません。しかし17世紀は、船に何百匹ものカメが積まれていた時代でした。この頃、ガラパゴス諸島では実に20万匹のリクガメが殺され、食べられたのです。

セントヘレナ島・ジェームズタウン。

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そんな状況で生き残ることができたのは、当時、島を治めていたハドソン・ジャニシュ氏が彼を気に入っていたからだといいます。またその名前を付けたのは、1932〜1937年の知事スペンサー・デイヴィス氏で、それまで彼に名前はなかったようです。

現在の知事マーク・ケイプス氏が『敬意を払われ、配慮され、気にかけられるべき』存在と述べているように、ジョナサン氏はその後も、島の総督・知事に愛され続けています。

ボーア戦争の捕虜ふたりとともに。

1900年撮影。

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セントヘレナ島の5ペンス硬貨。

すでに歴史的存在となっている。

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ジョナサン氏の現在の年齢は、1882年当時の写真の姿が約50歳であるという推定から割り出されたものです。しかし、生きてきた時間の長さに比べると、彼が映っている写真の数はあまりにも少ないように思われます。セントヘレナ島という土地、公邸住まいという環境で、彼はとても安穏な生活を送ってきたのでしょう。

鶴は千年、亀は万年

日本では長寿や夫婦円満の象徴となっているカメですが、ジョナサン氏のようなゾウガメは250歳程度まで生きる可能性があるといわれています。つまり彼は最長で2082年頃まで生きるわけで、そうなると現在生きている人間の大半はその最期を看取ることができません。いくらおめでたいとはいえ長生きしすぎです。

2082年、温暖化のため北極の氷は溶けている。

ホッキョクグマも絶滅しているとか……。

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Finance GreenWatch

『おっとっと』発売100周年にあたります。

カメ型もある。

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ダガシヤ画報

さらなる長生きの可能性を鑑みてか、ジョナサン氏の死に備え、すでにいくつかの計画が進んでいます。

たとえば、彼の死亡記事はすでに書かれていて、不測の事態にはスムーズに対応がなされるようです。また死後も剥製にはされず、代わりに甲羅が保管・公開されるようですし、さらに等身大の銅像の製作ため資金調達も行われるといいます。現時点での準備は万端といったところでしょうか。

そこまで決まっているとは……。

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でもちょっと気が早くない?

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これからジョナサン氏は、どのような生涯を送り、何を目撃していくのでしょうか。ぜひ記録に残してほしいものですが、もともと過酷な生い立ちですから、せめて余生は安穏に過ごさせてあげたいものです。しかしそんな思いをよそに、彼はのそのそとした歩みで、私たちもたどりつけない未来まで生きていくのかもしれません。

いつまでもお元気で。

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BBC NEWS

REFERENCE:

Meet the 183-year-old tortoise who is the world’s oldest living land creature