私たち人類にとって、火とは生活になくてはならないものです。灯りとなり、調理に用いられ、暖を取るために使われてきた火は、時には信仰の対象にもなり、お祭りなどの場面にも登場します。人間ほどその恩恵にあずかっている生き物も数少ないのではないでしょうか。

しかし、火は必ずしも私たちのためになってくれるとは限りません。猛威を振るい、私たちを恐怖に震え上がらせることもあります。それも、想像を絶するような力をもって……。たとえば、オーストラリアのとある山では、なんと5,500年にもわたって火災が続いているといいます。

Nobody is sure how the coal seam beneath the exterior of Australia’s Burning Mountain, also known as Mount Wingen (“fire” in an aboriginal language), originally ignited. But a coal seam 90 feet below the surface been burning for an estimated 5,500 years, making it the longest continuous fire on the planet.

地球最古の炎

オーストラリアの通称『燃える山』は、ブリスベンとシドニーを結ぶ高速道路上にあるWingenという村から、北に5キロの位置にあります。

現在、オーストラリア大陸に活火山は存在しません。『燃える山』も例外ではありませんが、その地下約27メートルには『炭層』(石炭を含む地層)があります。推定5,500年前から炭層は燃え続けており、その炎は地球最古ともいわれています。

オーストラリアの南東部に位置。

Wingenは原住民アボリジニの言葉で『火』の意味。

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google maps

アボリジニたちは、この山に長年親しんでいたようです。古代より調理や道具精製のため、山に開いた穴や岩の隙間から噴き出す熱風が利用されていました。その後、1828〜1830年頃にヨーロッパから入植者が現れたことで世界中から注目を集めるようになります。現在は観光地として、煙のあがる風景や硫黄の香り、地表からの熱気が楽しまれているとのことです。

地表から噴き出す煙。

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NSW National Parks and Wildlife Service

カンガルーもいる。

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Danny Yee

『燃える山』がそもそも燃え始めたきっかけは解明されていませんが、落雷や森林火災が原因という説もあれば、地下深くのマグマが炭層に侵入したという説もあります。現在、地下の炎は年に1メートルほど移動しているようです。

また現在、いくつかの問題も指摘されています。一帯の植物の生態系に対する甚大な被害、炭層が燃えつきた場所で起こる地盤沈下、岩だらけの不毛な道の増加、そして、毎年数十億トンにものぼる温室効果ガスの発生です。

もともとオーストラリアは森林火災が多い。

油分を多く含むユーカリの葉が引火の原因ともいわれる。写真は2015年1月に発生した大規模森林火災の様子(『燃える山』ではない)。

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UKRAINE TODAY

燃え続ける山と街

『燃える山』同様、一度点いてしまったがために現在も燃え続けている炎は世界各地に存在します。

アメリカ・ペンシルバニア州にあるセントラリアは、19世紀から炭鉱産業で栄えた町です。しかし1962年5月、大規模な坑内火災が発生しました。莫大な予算を要するために政府は消火活動を断念し、住民は立ち退きを迫られました。町はゴーストタウンと化し、現在も地下で炎が燃え続けています。煙と有毒ガスの噴出もいまだ止まっていません。

多くの廃屋は取り壊された。

郵便番号も抹消された町。

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Centralia PA – July 12, 2008

路上には落書きが多数。

「地獄へようこそ」

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Ultra V Images

しかし状況がよりシビアなのは、インド・ジャリア地区のほうかもしれません。地下で炭鉱火災が発生して以降、住民たちは燃え上がる炎の上で生活しています。裸足では生活できないほど地表の温度は高く、有毒ガスの噴出や家屋の倒壊も続いているようです。しかし多くの住民は、貧困のためにこの地を離れることができないといいます。

50年燃え続けている。

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Los Angeles Times

一方、トルクメニスタン・ダルヴァザの炎は、住民たちによって『地獄の門』と名付けられました。1971年の落盤事故で地表に穴が開き有毒ガスが発生、その噴出を食い止めるために放たれた炎が今でも燃え続けています。技術的に消火は難しく、またガスがいつ燃え尽きるのかもわかっていません。この場所も、今では観光名所と化しています。

『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』

『神曲』地獄篇より。

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Silk Worms & Iron Roosters

炎上するクレーター。

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wikipedia

地獄の業火だけじゃない

『地獄』とも名指されるほど、火は時として恐怖の象徴になりえます。しかし古代ギリシアでは、火とはもともと、神・プロメーテウスが、全知全能の神・ゼウスに背いて人類のために盗んできたものだと考えられていました。かつて、火は非常に神聖なものだったのです。

オリンピック聖火
古代オリンピックでは、ゼウスの妻・ヘーラーの神殿に灯されていた。近代オリンピックでは、聖火はヘーラーの神殿跡で太陽光線から採火される。現在、聖火はリレーによって主競技場まで運ばれる。大会は聖火台への点灯をもって開会し、聖火は開催期間中消えることはない。なお聖火の消灯をもって大会は閉会する。

オリンピック聖火 – Wikipedia

『地獄』には聖火で対抗です。これまで、オリンピック聖火はいかに燃え続けてきたのでしょうか。しかし、調べているうちに不都合な真実が見えてきました……。

2013年10月7日・ソチ五輪聖火リレー
モスクワにて、プーチン大統領も出席した聖火リレーの開始宣言直後の様子です。ランナーは元フィンスイミング世界王者、シャヴァルシュ・カラペチャン氏(当時60歳)です。

弱火で登場。

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ん?

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おーい、消えたぞー

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駆けつける男性。手にはライター。

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どう見てもアウトです。

しかし、このソチ五輪の聖火リレーでは合計40回以上聖火が消えていますし、また1998年の長野五輪では傾けて消え、2012年のロンドン五輪ではバーナーの不具合で消えています。ロンドン五輪組織委員会は「火が消えることは珍しいことではない」とコメントしました。いくらなんでもあんまりです……。

Explosion of the Olympic torch

ソチ五輪、こちらは燃えすぎたケース。

補足すると、聖火が消えてしまった場合、通常は保管してある種火から再点火することになっています。実際、ソチ五輪でライターから再点火したのはかなりの問題だったようで、ソチ五輪組織委員会会長のドミトリー・チェルニシェンコ氏は、次のランナーから本物の聖火に戻ったと述べています。

太陽が燃えている

太陽は、約48億年前の誕生以来『燃え続けて』います。酸素と化合していないので厳密には燃焼ではありませんが、核融合反応で光と熱を発しています。しかし、そんな太陽も約50〜60億年後には反応に必要な水素を使い切ってしまって『燃え尽きる』ことになります。その後、太陽は巨大化ののち再び縮小し、その活動を終了するといいます。

巨大化した際に水星と金星を飲み込むという。

太陽ですら『燃え尽きる』以上、人類にもたらされた『火』もいつか消えてしまうかもしれない。

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NEW YORK POST

そもそもオリンピック聖火は、大会の終わりに消えるものです。それがリレーの途中に消えるのは、いたって自然なことなのかもしれません。同じように、5,500年以上燃え続けている炎も、いつか必ず燃え尽きることでしょう。もっとも、いつになるのかは誰にもわかりませんが……。

思い返せば、聖なる炎も地獄の業火も、ほとんどが自然か人間の力によって消えています。いつまでも灯っていてほしい、一刻も早く消えてほしい……そのように思うのは、火の恩恵にあずかってきた人間だからなのかもしれません。ただわかることは、一度灯ってしまった火を前に、私たちは祈ることしかできないということです。

REFERENCE:

World’s Oldest Fire Has Been Burning for 5,500 Years

World’s Oldest Fire Has Been Burning for 5,500 Years

http://news.discovery.com/earth/worlds-oldest-fire-has-been-burning-for-5500-years-150123.htm

Australia’s Burning Mountain

https://answersingenesis.org/theory-of-evolution/millions-of-years/australias-burning-mountain/

【トルクメニスタン】人の手によって生み出された、地獄の門「ダルヴァザ」

http://tabizine.jp/2014/07/15/13596/

炎と煙に包まれた灼熱地獄に居座り続けるインドの住民

http://jp.wsj.com/layout/set/article/content/view/full/47932

Centralia Pennsylvania

http://www.offroaders.com/album/centralia/centralia.htm

ロシアが威信かけるソチ五輪、聖火は「40回以上」消える

http://jp.reuters.com/article/jpRussia/idJPTYE9A502220131106

五輪=聖火が消えるハプニング、英国内のリレーで初

http://jp.reuters.com/article/sportsNews/idJPTYE84L01S20120522

オリンピック聖火 – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF%E8%81%96%E7%81%AB