まだ幼かったころ、両親の携帯電話や、仲の良い友人の自宅の電話番号は、ある程度頭に入っていました。メモや電話帳を見なくても、ほぼ無意識に電話機のボタンを押せていたものです。しかし今、私たちの電話機には何百件もの電話番号が入っています。もはや『覚える』ことすら必要ではなくなって、私たちは、よく電話するあの人やこの人の電話番号すら覚えていないでしょう。しかも私たちは、あらゆることを覚えなくてもよくなってしまったせいで、『思い出す』努力すらしなくなったというのです。

A new study suggests that when faced with a question, over a third of people automatically Google the answer quickly, without trying to come up with the answer themselves.

『覚えなくてもいい』という怠慢

デジタル記憶喪失
デジタル端末の普及やオンラインサービスの充実により、ある種の情報を忘れ去ってしまう、という傾向を指す語。デジタル化以前の世代に比べるとある種の情報に対する記憶の程度が低くなっている傾向があると指摘されている。

IT用語辞典バイナリ

ロシアのコンピュータ・セキュリティ会社、カスペルスキーは、6ヶ国に暮らす16歳以上6,000人を対象として調査を実施しました。その結果、全体の47%が実家の電話番号を、49%がパートナーの電話番号を、57%が職場の電話番号を、そして71%が子供の電話番号を思い出すことができなかったいうのです。

しかし、問題は思い出せなかったことではありません。全体の36%が、思い出す努力をする前にインターネットで調べようとしたのです。この割合は、45歳以上の人物では40%まで上昇しました。調査報告書には「彼らは自分の記憶を疑っているともいえるし、正しい答えを得ることにせっかちだともいえる」と記されています。

「これ前も調べたような……」

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もっとも24%の人々は、インターネットで得た答えは使ったあとすぐ忘れてしまうだろうと想定していました。(45歳以上の場合、この数字は27%に上昇します)。その一方で、12%の人々は、情報はどこかに残りつづけるものだと考えていたようです。

情報との関わり方

しかし、カスペルスキー社の調査報告に携わった、バーミンガム大学で心理学を教えるマリア・ウィンバー氏はこのように述べています。

「私たちの脳は、思い出すたびに記憶を強化し、同時にいらない記憶を忘れていきます。積極的に、繰り返し『情報』を思い出すことは、記憶を固定するための非常に効果的な方法です。その一方で、受動的な方法で繰り返し『情報』を得ても、記憶は固定されません。したがって、思い出そうとする前に検索してしまうのは、長期記憶の形成を妨げることにもなりうるのです」

『すぐに情報を得たい』という欲求と、『思い出すのが面倒』という怠慢。ふたつが組み合わせられることで、長期記憶にも影響が出るということです。また、蓄えられるべき情報が忘れ去られてしまうことは、それは『情報の活用』の失敗をも意味します。本当に必要な情報と、そうでない情報とでは、その関わり方についても意識的にならなければならないのかもしれません。

「忘れることは正常なこと」

しかし信用を失わない程度に……。

インターネットで世界を認知する

忘れてもよさそうなものが、スマホやパソコンに逐一記録されることで、私たちはある意味、『忘れる』ことを忘れてしまった……。逆にいえば、それは私たちが『忘れたくない』という欲求を強くもっているという証明でしょう。ある研究者は「インターネットは認知の道具のひとつ」だと述べていますが、すでに私たちは、『記憶』という脳の機能ごと『外付け』しているのかもしれません。

また、情報を『共有』するのではなく、将来的に自ら使いたいと考えたとき、人々はだれか他の人の記憶に頼るのではなく、電子的に情報を『保存』する傾向にあるようです。すでに心理学者のダニエル・ウェグナー氏らは、私たちがインターネットを『交換記憶』の相手のように扱っている可能性について指摘しています。

交換記憶

『情報』を共有し、他者の記憶に頼ること。

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まるで家族や恋人と同じように、たやすく記憶をクラウドに預けてしまう……。身近な記憶のあれこれを『記憶』しないという無意識の選択は、近しい人ほどついガサツに扱ってしまうことにも似ているような気もします。

記憶のデータベース

つまり、インターネットには世界中のあらゆる人物の『記憶』がデータベースとして残っている。これから先の時代、『歴史』は、そうしたデータベースの分析から生まれるのかもしれない。

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たとえば、録画した番組をいつまでも見ないこと。買った本やゲームが、読んだり遊んだりしないままになること。インターネットで『記憶』や『情報』にすぐアクセスできることは、それらと同じように『すぐ覚えなくてもいい』という判断をもたらしているのかもしれません。ならば私たちは、そもそも覚えていないことを知っているのですから、『思い出す』努力などするはずがないでしょう。

もっとも、調査を実施したカスペルスキー社は、こうした『デジタル記憶喪失』がつくりだす『クセ』はさほど危惧していないようです。むしろ彼らは、「記憶を外付けするなら、もっとセキュリティを強化したほうがいいんじゃない?」という主張で報告書をまとめていました。さすがセキュリティ会社、ここに至っても商魂たくましいというべきでしょうか……。

REFERENCE:

Is Google rotting your BRAIN? A third of adults search for answers without trying to remember and 25% immediately forget what they’ve found out

Is Google rotting your BRAIN? A third of adults search for answers without trying to remember and 25% immediately forget what they’ve found out

http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3263670/Is-Google-rotting-BRAIN-adults-search-answers-without-trying-remember-25-immediately-forget-ve-out.html

Smartphones rot your brain and kill your memories, says latest research

http://www.ibtimes.co.uk/kaspersky-smartphones-are-rotting-your-brains-your-memories-arent-properly-protected-1522578