日本国内ではほとんど聞かれない出来事だが、海外で凶悪事件が発生すると、警察によって犯人がすぐに射殺されることがある。多くの場合すでにいくつもの命を奪った犯人ではあるものの、その事件の幕切れにはどこかやりきれないものがある。犯人を殺して何かが終わったようになることへの抵抗感かもしれない。

オハイオ州のバテル国際研究所で、新型の拳銃『ポゴジェット』が開発されている。なんと人を殺さないための銃なのだが、しかし麻酔銃というわけではない。

Nicknamed the Pogojet, it’s a radical less-than-lethal design from Jeffrey Widder, senior research scientist at Battelle Memorial Institute in Ohio.

これがその『ポゴジェット』

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Popular Mechanics

不殺の武器

通常の“人を殺しうる”拳銃は、銃弾の底に詰まった火薬が発火することで推進力を得るというロケットのような仕組みになっている。これに対して『ポゴジェット』(Pogojet)は、銃弾の先端に火薬が詰まっている。これが発火すると、同じく銃弾の中にあるピストンが押し出され、その反発力で銃弾が飛び出す仕組みだ。また『ポゴジェット』は、爆発で生じるガスを銃の側面から排出することで発射速度を操作することもできる。

発射前の『ポゴジェット』の銃弾

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©pogojet

発射後のポゴジェットの銃弾

金属が押し出されている。これが銃身の底を蹴り上げるため銃弾が飛ぶ。

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©pogojet

ちなみに『ポゴジェット』という名前は、『ポゴスティック』(pogo stick)、すなわち日本でいうホッピングから付けられたものだ。バネの反発力で跳ね上がるという仕組みが共通しているほか、ポゴスティックにはガスや圧縮空気を利用した機種もあるという。

ホッピング(pogo stick)

跳ねる!

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従来の『非致死性拳銃』とどう違うのか?

これまでの“相手を殺さない銃”は、銃弾が大きい・軟らかい・速度が遅い、が必須3原則だと考えられてきた。たとえばゴム弾はその代表選手だが、しかしその有効距離は石を投げるよりも短いという。さんざんな言われようだが、非致死性の拳銃は、至近距離で撃って安全なものは遠くまで届かず、遠くの対象に届く銃は近くの対象を殺してしまうようなものが多く、威力と安全性のバランスが非常に難しい問題だったのである。

銃撃の対象を殺さないためには、秒速77〜87mで銃弾を命中させなければならない。『ポゴジェット』は、ガスの排出をコントロールすることで銃弾の発射速度を変化させられる設計をもっており、至近距離で発射しても安全、かつ遠距離でも確実に効く。なんと約100m先の対象でも問題なく使用できるというのだ。

『ポゴジェット』の銃弾(50口径)

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Popular Mechanics

もっとも、使用者が距離を測りながら速度を手動で変更して銃撃することはそう簡単ではない。そこで『ポゴジェット』は、軍用グレネードランチャーにも使われているレーザー距離計によって、発射速度を適切に自動調整する機能を搭載している。そのインターフェースはこれから開発される予定だが、すでに速度の調整機能は非常に高い信頼性をもつという。

ハチのような銃弾

非致死性の拳銃の多くは、銃弾の先端を平たくすることで、衝撃が広い面積に伝わるよう設計されている。先端の面積が小さいほど肉体を貫通する可能性が高く、対象を死なせてしまうリスクが高まるからだ(この種の拳銃に大口径が多いのはそのため)。しかし、そういった銃弾は空気抵抗を受けやすく普通の銃弾と同じような軌道を描かない。『ポゴジェット』は、そうした拳銃とは異なるアプローチを採用している。前述のように速度の問題がないため銃弾の回転と弾道を安定させることに注力されており、狙った位置に確実に命中させられる仕様なのだ。

これまで非致死性の拳銃は、対象の急所ではなく太ももやお尻を狙う仕様になっていることが多かった。しかし、この手の銃を実際に使う者は、日頃より相手の胴体を狙うように訓練されている。『ポゴジェット』の仕様はこのズレを解決するためのものであり、また弾丸は先端の面積が狭いぶん強い威力を持つ。それは「ごく小さい面積にとても強い痛み」、すなわちハチに刺されるようなものだというが……。

発射の様子

本当にハチ程度の痛みなら逃げられかねないので、きっととんでもなく痛いのだろう。

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強い痛みを確実に胴体に与えることで対象の動きを止める。新型拳銃『ポゴジェット』とは、一定の威力と正確性を保証する、しかし殺しはしない、というものだったのである。もっとも、小口径の銃弾が大口径のものより危険であるという意見は根強い。これに対して開発者は、「どんな銃でも技術は必要」だと述べている。非致死性の拳銃で重傷者や死亡者が出るケースは、対象の頭・顔・首などを撃ってしまっていることが多いため、正確性の高い銃を確実に扱えればむしろ事故の危険は減らせるというのだ。

『ポゴジェット』はまだ開発途中だが、もし実用化されて広く行き渡れば、拳銃による犯罪の取り締まりが変わり、さらにいえば世界の銃社会にも変化が生まれる可能性がある。世界の戦闘と平和に革新をもたらすかもしれない新型拳銃、その完成が待たれるところだ。

REFERENCE:

Ingenious New Non-Lethal Bullet Burns Propellant Inside the Round

Ingenious New Non-Lethal Bullet Burns Propellant Inside the Round

http://www.popularmechanics.com/military/weapons/a18812/pogojet-non-lethal-gun/