はたして『哲学』とはなんだろうか? のめり込んで人生ごと潰す者もいる学問だが、そもそもさっぱりわからない、という人も少なくないだろう。なんとなく小難しいイメージで敬遠する人もいるはずだ。しかし、哲学の入り口は決して難しくない。むしろ幼いころから親しんだほうがいいかもしれない……というのも、イギリスで行われた研究によれば、小学生が『哲学』をすると学力が向上したというのだ。

A study published in the UK last year found that primary school children in years 4 and 5 who took part in a series of lessons devoted to discussing philosophical concepts didn’t just learn about reasoning and the nature of reality – the classes delivered academic advantages in their regular school curriculum too.

『哲学』を小学校の授業に導入する

2013年の1年間、イギリスにある48の小学校で「哲学を学校教育に導入する」という実験が行われた。プロジェクトの名前は『Philosophy for Children(P4C)』、日本語でいえば『子どものための哲学』である。この実験には8~10歳ごろの小学生3,000人が参加しており、そのうち半分が週1回哲学の授業を受け、もう半分は普通に学校生活を過ごしていた。

その結果、哲学の授業を受けた生徒は読み書きと算数の能力が向上したという。しかし注目すべきは、この授業は『哲学』を扱うものだったことだろう。学力の向上を直接的に目指さないプログラムのなかで、いったい何が行われたのだろうか?

大切なのは質問と議論

そもそも、この哲学の授業で目指されたことは『生徒が哲学に興味を持つこと』や『哲学的な問いに何らかの回答を得ること』ではなかった。重要だったのは、ある問いをめぐって生徒たちが互いに質問をすること、議論を構築すること、筋の通った議論に参加することだったのである。

授業では生徒の興味を刺激するために、まずは哲学的なテーマを内包した映像や写真、新聞記事などが示された(「お風呂でクジラを育てようとする子どもの話」など)。そうした話題に関する質問を考える『シンキングタイム』のあと、いよいよ生徒たちは議論のために小グループに分けられた。真実とは、正義とは、知識とは、友情とは、平等とは……、いよいよ大きな問いを小さな議論から考えるのである。

生徒と教師が円形になって話し合う(イメージ画像)。

image by

Wellspring Community School
– Licensed Under Creative Commons Attribution 2.0 Generic

【授業で使われた議論のテーマ(一部)】
・自らの健康を顧みなかった者に、健康な心臓の移植は行われるべきか?
・誰かの自由を奪うことは許されるか?
・自由な思考を止めることはできるのか、またそうすべきなのか?
・なぜ男性のテニスプレイヤーは女性よりもスポンサーが多いのか?
・職場で宗教的シンボルを身につけることは認められるか?

一連の実験の結果、哲学の授業を受けた生徒はそれ以外の生徒に比べて『読む』能力と算数能力が2ヶ月ぶん向上した。報告によれば『書く』能力も向上しているようだが、授業には『書く』ことを鍛える内容は含まれておらずその根拠は不明とされている。

研究チームによると、教師たちからは「(哲学の授業が)子どもたち同士の関わりを促進し、また『考える・聞く・話す・議論する』という文化を育む機会となった」という報告が届いているようだ。また、授業は生徒たちの自信や忍耐力、自尊心にも影響を与えたともいわれているが、実験結果が確実なものかどうかの確認は繰り返し行われる必要があるという。しかし、今回は少なくともネガティブな報告はないようだ。

正式に『哲学』の授業が導入される未来もありうる?

image by

Victor Björkund – Licensed Under Creative Commons Attribution 2.0 Generic

ところで、日本人はそもそも議論が苦手だといわれる。さらに前掲した議論テーマをみる限り、この『哲学』の授業をそのまま日本の学校教育に取り入れることができるかどうかは、たとえ未来の話としても予測できないところだろう。しかし教育の観点から考えても、今回のプロジェクトが目指した内容を生活のなかに取り入れるのは効果的ではないだろうか。まずは親子で一緒に哲学してみる、そんなところから始めてみるのも悪くないかもしれない。

REFERENCE:

Teaching children philosophy can improve their reading and math skills, study finds