仕事のため、旅行のため、趣味のため。さまざま理由はあれども、大人になってから新たに外国語を学ぼうとしている方はきっと少なくないことでしょう。そんな方に、語学の向上についての朗報……かもしれません。

このたびの研究によると、幼少期の私たちは『ことば』を覚えるときに、じつは『ことば』単体ではなく『文脈』から覚えているというのです。

Stanford psychologist Michael Frank says that children learn words best when they are used in a context that’s understandable. Using words in fun, coherent activities is more important than just talking more to children.

ことばと文脈

ぶん-みゃく【文脈】
文章の流れの中にある意味内容のつながりぐあい。多くは、文と文の論理的関係、語と語の意味的関連の中にある。文章の筋道。文の脈絡。コンテクスト。「―で語の意味も変わる」「―をたどる」
一般に、物事の筋道。また、物事の背景。「政治改革の―でながめると」

デジタル大辞泉

スタンフォード大学のマイケル・フランク准教授は、「文脈は、子供たちがことばを簡単に理解する理由を知るために重要だ」といい、ひとつの言葉をどれだけ頻繁に聞いたかより、彼らが『どこで』『どのように』そのことばを耳にしたかが大切だと述べています。すなわち、ことばが使われた文脈が、子供たちにとって特別であるほど、話し手の意志はより理解されやすくなるのだ、と言い換えてもよいでしょう。

文脈の3要素

フランク氏の研究は、ことばが使われる文脈を調べていくことで、たとえば『食事』や『読書』や『おむつ交換』といった日常の場面で、ことばがどのように使われているかを明らかにすることでした。これは、早い段階での言語習得が、のちに学力の達成度にどれだけ関係するか、という研究にもつながるものだといいます。

「下品なこと言ってんじゃねえぞ……」

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フランク氏が驚かされたのは、『ことば』と『文脈』のあいだに、奇妙な共通点がみられたことでした。そのことばは家のどこで発されたのか、1日のいつ発されたのか、ほかのどんな言葉と一緒に使われたのか……。いわば『文脈』には、空間・時間・単語の関係という3つの要素があり、それぞれが深く関係しあっていたのです。

こんな経験はありませんか?

外国語の映画を観ていると、はじめは聞き取れなかったはずの単語が、やがて聞き取れるようになり、なんとなく意味もわかってくる……。この現象は、私たちが『文脈』から『ことば』を理解していることを示しているといえるのかもしれません。

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『文脈』の広さ

しかし、『ことば』と『文脈』の関係をどのようにして突き止めたのでしょうか? じつは、今回の研究で特筆すべきところは、その調査方法にこそあるといえるでしょう。

研究に加わっていたマサチューセッツ工科大学のデブ・ロイ氏は、なんと自らの家族の協力を得て、自宅のすべての場所にカメラとマイクを設置し、生活の様子を記録していたのです。1日8~10時間、3年にわたって記録しつづけたことで、いま彼の手元には、約9万時間の映像と約14万時間の音声が残っていました。

魚眼レンズで撮影。

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すべての映像をつなげて自宅のアーカイブが完成。

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この記録は、デブ氏に息子が生まれ、彼が自宅にやってきた、まさにその日からはじまりました。研究では、息子の活動時間の約70%が記録されたデータから、彼が聞いたり発声した『ことば』の数々と『文脈』が分析されたのです。フランク氏は、人間の行動の研究に、映像や音声などのマルチメディア・データを用いる重要性を指摘しています。とりわけ今回の方法は、あらゆる角度から子供の環境を分析できた点で非常に有用だったようです。

また、これまで言語習得の研究では、『ことば』のもつ幅広い側面の、いったい何を測定すべきか、ということが問題となってきました。そのなかで今回の結果は、子供の聞くことばの『量』ではなく『質』を測定すべきだ、という見方をもたらすものです。

とはいえ正気の沙汰ではないような。

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もちろん、今回の結果があらゆる子供に当てはまるものかどうか、その検証にはまだ課題が残されています。しかしフランク氏は、言語の習得のためには、ことばをただ繰り返すのではなく、楽しく、筋道のある活動のなかに埋め込むことを薦めています。また、この方法が大人にも使えるならば、外国語の学習をするとき、覚えたい単語に触れる機会を、意図的に日常のなかに仕掛けていくことはとても効果が高そうです。

しかし、この研究と調査方法からわかるのは、『文脈』ということばの意味が、どうやら辞書に載っているよりもはるかに広いということでしょう。ことばや理屈の意味や筋道だけでなく、空間的にも時間的にも膨大ななかから、子供たちがひとつの『ことば』を学び取っているとしたら……。その方法は、大人が意識してつくり出せるようなものではないのかもしれません。

REFERENCE:

Distinctive contexts critical to how children learn words, Stanford study reveals

Distinctive contexts critical to how children learn words, Stanford study reveals

http://news.stanford.edu/news/2015/september/language-learn-context-092315.html

Deb Roy: The birth of a word

http://www.ted.com/talks/deb_roy_the_birth_of_a_word