その青い目の少年はたったいまも どこかの町かどに立ってるのかもしれない 彼らのはたを時はゆく 彼らにとって時はそのまま止まっている かわってゆくのは周囲であり わたしたちのほうなのだ

まさかこんな日が来るとは思ってもみませんでした。萩尾望都の『ポーの一族』の新作が、5月28日発売の月刊flowers7月号に掲載されます。

創刊15年記念 BIGよみきりとして、萩尾望都先生の「ポーの一族」最新作「春の夢」(前編40P)が月刊フラワーズ7月号(5/28発売)に掲載されます!

『ポーの一族』は、別冊少女コミック(小学館)に、1972年3月号から1976年6月号に連載された、永遠の命を持つ吸血鬼の少年、エドガーを主人公に作品内で200年以上の時間を描いた少女漫画の名作。40年も前の作品にも関わらず、今なおファンを増やし続けています。かく言う記者(20代男性)も大ファンです。

ネットではこのニュースを聞いた人々の喜びの声が上がっています。皆さん、気分はほとんどジョン・オービンです。

「…きみはエドガーか? わたしのことなぞ忘れたろうね」「おぼえてるよ魔法使い」

ポーの一族の吸血鬼達が魅力的なのはもちろんですが『人間』も私たちに似て非常に人間らしく魅力的で、ポーの一族という作品と読者の距離を接近させてくれています。作品内でエドガーを始めとした吸血鬼達は度々、色々な苦悩に見舞われますが、読者の私たちにとって、そしてエドガー達を知る登場人物にとって、彼ら吸血鬼は何か一つの理想の世界や、『この世界にいて欲しい何か』のように映ります。それは不老不死への憧れであるかもしれないし、『永遠に変わらない何かがどこかにあってくれる』という神を思う気持ちに似てるかもしれない。けれど現実にはエドガーはいない。『グレンスミスの日記』を発表した、グレンスミスの曾孫マルグリッド・ヘッセンもエドガーやメリーベルを『子供の頃に教えてもらったおとぎ話の一つ』のように捉えています。

この古い日記を手に、グレンスミスのふしぎなポーの村の話をしてくれたのは祖母でした。小さかったわたしはすっかりそれを信じました。でもやがておとなになる代価に……魔法や夢を支払った……。ものをかくのはだからです。その時だけわたしは子どもにもどれます。奇跡や魔法が使えます。あなたも夢をみるでしょう?

『この吸血鬼はいないと思っているけれど、実際にいる』という視点が読者の心を揺さぶり『エドガーは本当に今もどこかにいるんじゃないか』と思わせてくれます。ポーの一族の魅力の一つはこの『読者と登場人物の視点が重なることで現実と虚構の境目をあやふやにする』力の強さにあると言っていいでしょう。

今回の企画は月刊flowersの15周年企画の一つとして発表されるとのことですが、先ほどポーの一族年表を確認したところ、オービンがエドガーに出会うのが1934年で、夢の中でエドガーに会い、「おぼえてるよ魔法使い」というセリフが登場する『エディス』の舞台が1976年、つまりオービンはエドガーに42年ぶりに再会しており、今回の新作は40年ぶり、連載開始からなら44年ぶりとなるので、リアルタイムの読者にとっては本当にジョン・オービンがエドガーと再会するくらいの時間が過ぎたことになります。この『視点の重なり』は偶然にしては少し出来過ぎです。つまりどういうことかというと、エドガーは本当に存在する(と言ってしまいたくなるのも無理はない)のです。

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新作『春の夢』のカット

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©萩尾望都/小学館

なお5月10日には、「ポーの一族」の復刻版全5巻が刊行される予定で、未読の方も既に読んだけれど手元に無いという方もこれを購入して新作の前に『ポーの一族』の世界を味わうことができるようになっています。

さらに現在(2016年4月28日時点)、萩尾望都、吉田秋生、あだち充、高橋留美子作品を対象とした小学館コミック文庫フェア2016が開催されており『ポーの一族』はもちろんのこと『11人いる!』や『トーマの心臓』等の代表作品もフェアの対象商品となっており、対象商品を購入すると各3000部限定で特別ブックカバーがもらえる他、応募者全員にプレミアムグッズがプレゼントされます。

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A賞の『萩尾望都 特製ミニ手ぬぐい』もいいですがB賞の『吉田秋生 特製ミニ手ぬぐい』のデザインも素敵。

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©小学館

ちなみに、『トーマの心臓』はポーの一族の新作が載る月刊flowers7月号に、番外編(『訪問者』『湖畔にて』)が収録された小冊子が付いてきます。フェア対象商品の中では『ポーの一族』『11人いる!』『トーマの心臓』の他にも『ウは宇宙船のウ』『半神』『イグアナの娘』あたりが読みやすく面白く記者はオススメです。フェア対象外の商品では『10月の少女たち』が『精霊狩り』シリーズ等、ポーの一族以前の萩尾望都作品が多く収録されていてかつどれも軽快でオススメです。

また現在発売中の月刊YOU5月号(集英社)では萩尾望都が初のマンガ原作を手掛ける『天使かもしれない』の第一回が掲載されています。さらに月刊YOU5月号には『研修医なな子』『ごくせん』、2016年に映画も公開される『高台家の人々』の作者、森本梢子の子育てエッセイ風マンガ『わたしがママよ』の一巻が付録でついてきます。個人的に森本梢子の最高傑作なのでこちらもオススメです

ポーの一族の新作は1944年の第二次世界大戦まっただ中、戦火を逃れてウェールズに来たエドガーとアランが、ドイツ人の少女と出会う、というストーリーで月刊flowers7月号にはその前編が掲載される予定です。

top image by ©萩尾望都/小学館