去る2015年12月15~16日、オランダの欧州宇宙研究技術センターで、ある国際シンポジウムが開催された。『Moon 2020-2030―人間とロボットによる探査の新時代』と題されたそのシンポジウムには、科学者をはじめとした200人以上の専門家がつどい、今後の国際的な宇宙開発において『月』がいかに重要であるかが語られたという。

そのなかで欧州宇宙機関は、2020年から2030年にかけて有人月面基地を現実のものにできる可能性を示唆した。

Villages on the Moon built by huge 3D printers and inhabited for months at a time by teams of astronauts could be a reality in the next decade or so, a recent conference of 200 scientists, engineers, and industry experts has concluded.

『Moon Village』

欧州宇宙機関(ESA)の提案する有人月面基地『Moon Village』は、宇宙飛行士たちが1回につき数ヶ月滞在することができる施設だ。ESAによれば、2020年代の早い段階から、基地建設のためロボットが月面に送り込まれ、数年後には最初の滞在者が月面に旅立つという。

3Dプリントで造る基地

ESAは以前より有人月面基地の建設に向けて取り組みを進めており、2013年には実際の建設材料を複数の企業とともに検討していた。その結果、3Dプリントにより月面の資源から『Moon Village』を造れることがわかった。すなわち、基地を建設するために地球から月面へ資源を輸送する必要はないのである。

『Moon Village』完成予想図

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ESA

イギリスの製造会社『Monolite』は、基地建設のために砂状の素材を結合させる3Dプリンタを提供した。いわく、月面の資源と酸化マグネシウムを混合させたものを素材として、それに特殊な塩を結合させると石のような固体を造ることができるという。次世代プリンタは1時間に約3.5メートル造れるため、ひとつの基地を約1週間で完成させられるという。

また『Moon Village』の設計には、国際的建築設計組織『フォスター+パートナーズ』が参加。建物の形状には『カテナリードーム』型が採用されたほか、壁は強度と重量のバランスが考慮された細胞型の構造となっている。滞在者を流星塵や宇宙放射線から守るため、工夫が凝らされているようだ。

提供された3Dプリンタ

『Monolite』はビーチの保護のため3Dプリントでサンゴ礁を造るなどの取り組みを実施している。

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ESA

細胞を思わせる壁面の構造

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ESA

計画を受けて、ノートルダム大学のクライヴ・ニール氏は「私たちは月面の資源について議論を続けねばならない。本当に使えるのか、実際に蓄えはあるのか、実証の必要もある」と話している。資源のサイズや成分、形状などの情報を正確に測定するには、さらなる技術開発と投資も必要だというのだ。

有人月面基地、その目的

しかし、なぜ『月』が重要なのだろうか? これについて、NASAのキャシー・ローリニ氏は『Moon Village』計画について「月を火星への道のりの『優先到着地点』としている」ものだと述べている。すなわち有人月面基地は火星への足がかりに他ならないのである。

フォボス・ダイモスは火星の衛星。これらをさらに経由するという案もある?

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すでにNASAは計画に興味を示しているが、その理由は彼ら自身のコストにもあるだろう。すでにマサチューセッツ工科大学は、液体燃料の多くを月面で得られる場合、現在の燃料のわずか32%で打ち上げが可能になると予測している。またNASAのコンサルタント会社『NexGen Space LCC』も、月面での燃料補給が実現すればNASAのコストを年に10億ドル削減できると推定したのである。

各国の思惑やいかに

ローリニ氏はシンポジウムで、NASAの火星計画について「地球と月のあいだの空間(cislunar space)を『試験場』として、深宇宙を探索する国際的な取り組みをリードしたい」と語った。しかし彼女は、同時に「月への人類のミッションは、ヨーロッパの技術や能力への投資なくして実現しない」とも述べている。むろん現在の宇宙開発は国際協力が基本であり、かつてアメリカとロシアが競って宇宙開発に取り組んだ冷戦期とは状況も異なる。しかし、いったいNASAの真意はどこにあるのだろうか?

ともあれ、『Moon Village』計画が近いうちに本格始動することは必然ともいうべき状況である。すでにNASAは「できるだけ早く国際宇宙ステーションの外に出る」という計画を明らかにしているだけに、その結果によって、有人月面基地の重要性と至急性が決まると考えても良いのかもしれない。

REFERENCE:

European Space Agency announces plans to build a ‘Moon village’ by 2030

European Space Agency announces plans to build a ‘Moon village’ by 2030

http://www.sciencealert.com/europe-plans-to-build-a-moon-village-by-2030-space-agency-announces

Lunar Leap: Europe Is Reaching for a Moon Base by the 2030s

http://www.space.com/31488-european-moon-base-2030s.html

Building a lunar base with 3D printing

http://www.esa.int/Our_Activities/Space_Engineering_Technology/Building_a_lunar_base_with_3D_printing

International Symposium on Moon 2020-2030

http://spaceflight.esa.int/humanrobotics/