2015年11月18日、Amazonが定額制音楽配信サービス『プライムミュージック』を開始した。

Amazonが「Prime Music」を日本で提供開始
Amazonプライム会員なら100万曲以上の楽曲を追加料金なしで聴き放題

100万曲以上聴き放題

Apple Musicを始めとした定額制音楽配信サービスが次々と始まっている昨今、何年も前から楽曲をダウンロードで購入できるサービスを始めているAmazonが定額制音楽配信サービスを開始するのは時間の問題だったといえる。

Amazonのプライム会員であればAKB48、AI、GreeeeN、HY、MACO、angela、テイラー・スウィフト、サム・スミス、アリアナ・グランデ、マルーン5、エリック・クラプトン、マイルス・デイヴィス等、国内外の人気アーティスト達による100万曲以上の楽曲を追加料金なしに聴くことができるという。

月額330円以下

プライムミュージックの最大の特徴はなんといってもその安さにある。元々Amazonのプライム会員であれば無料で楽しめる上、プライム会員の費用は年間でたったの3900円だ。プライムミュージックのためだけにプライム会員になったとしても月額330円以下でサービスが利用できる。この値段は国内大手の定額制音楽配信サービスAWAのLite Planの月額360円より安く、LINE MUSICやApple Music、Google Play Musicが軒並み1000円近い月額がかかること、Amazonのダウンロード販売の一曲単位の値段がおおよそ200円程度であることを考えると破格の安さであるといえる。

音楽は好きだけど、毎月1000円は払えない

実際、Amazonデジタルミュージック部門バイスプレジデントのスティーブ・ブーム氏は「音楽は好きだけど、毎月1000円は払えない」という層を重視していることを語っている。これはApple MusicやGoogle Play Musicといった「いつも全ての曲にアクセスしていたい」という音楽マニア層を意識に入れていないということを意味している。

たしかにAmazonの発想は一理ある。マニアックな音楽ファンは絶対的な数が少ない。その上、音楽ファンは同時に音質、あるいは物理メディアを重視することがある。PCにインポートするにしてもCDは手元に置いておきたい、あるいはたとえ320kbpsだとしても可逆圧縮の音質には敵わない、と思う層にはストリーミング配信サービスは届かない。

それに対しどんな趣味の世界でも最も多いのは所謂『ライト』な層だ。音楽で言えば『ラジオやテレビのCMで聴いて気に入った曲を聴く』という層などがそれにあたるだろう。AKB48、GReeeeN、テイラー・スウィフト、マルーン5といったラインナップはその層を確実にカバーしているように見える。

Google Play Musicの3500万曲に比べると100万曲という数はかなり少ないように思えるが、一曲の長さを4分半と考えると100万曲全てを聴くには24時間聴き続けたとしても3125日、約9年かかる計算だ。その間にかかる金額はたったの35100円。一曲あたり0.03円しかかからない。

大手配信サービスとの比較

ここでひとまず大手定額制音楽配信サービスとの比較を表にして簡単にだが整理しようと思う。

Amazonプライムミュージック Apple Music Google Play Music LINE MUSIC AWA
月額 330円以下 980円 980円 1000円(学割600円) 960円or360円
楽曲数 100万曲以上 3000万曲以上 3500万曲以上 150万曲以上(年内に500万曲以上) 2015年末までに500万曲
最高音質 256kbps 256kbps 320kbps 320kbps 320kbps

こうして見るとプライムミュージックの安さがよくわかる。AWAの360円のLite Planはプレイリストを自分で作成することができないので(他のサービスは作れる)曲数にさえ目をつぶればプライムミュージックが頭一つ抜けているように見えないこともない。

実際に試してみる

とはいえ、実際に使ってみないことにはどの程度使い物になるのかはわからない。記者はAmazonのプライム会員ではなかったが幸いにもAmazonは30日間のプライム会員試用期間を設けておりその期間であればプライムミュージックも無料で利用できる。早速申し込みをしてAmazonプライムミュージックがどのようなものなのか試してみた。

PC用アプリ、ブラウザ

プライムミュージックはスマホ用アプリ、PC用アプリ、ブラウザの三種類での再生が可能だが、ひとまずPC用アプリとブラウザでの再生はやめておいた方が懸命だ

AmazonプライムミュージックはAmazon musicというAmazonでダウンロード購入した楽曲を再生・管理するサービス内サービスなのだが、ブラウザとPC用アプリではプライムミュージックとAmazon musicの住み分けがうまくいっておらず、無料で聴ける楽曲を自分から探すのは困難だ。

たとえばプライムミュージックが提示するプレイリストを再生していてQueenの『I was born to love you』という曲が気に入ったとしよう。そこでQueenの他の曲も聴いてみようとQueenの項目をクリックする。するとQueenのアルバムが出ることは出るが有料で購入しなければいけないアルバムも出てくる。一応無料で再生できる曲が含まれるアルバムは印が付いているがソートされているわけでもソートできるわけでもないのでいちいちアルバム全てに目を通しどれが無料であるかを確認しなければならない。

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Amazon musicアプリ

アルバムの左上に『プライム』という帯が付いているアルバムが無料の曲が『含まれている』アルバム。

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©Amazon.com

有料のアルバムが見えてしまうが故にどうしても『無料で聴けるアルバム』の少なさが目に付いてしまう。Queenでいえばダウンロード販売されているアルバムの数はリマスターやデラックス・エディション含めた24枚なのに対してプライムミュージックで再生可能なのはたったの4枚だ。『ライト層』を対象にしているくせにベストアルバムが聴けないことも腹立たしい。聴けないストレスに加えてAmazonに暗に「聴きたければ買え」と言われているような気がしてかなり腹立たしい思いをする。Amazonの大きな魅力の一つであるオススメのサジェスト機能もここでは視聴できないストレスにしかならない。

表に挙げた他の定額制音楽配信サービスは全曲無料のためこのようなストレスが起きることは当然ながらありえない。

スマホ用アプリ

先行きを不安に感じたが幸いにもスマホ用アプリの方はずっとマシな出来になっている。きちんとプライムミュージックで無料視聴できる曲だけを探せる作りになっており、PCでの再生のようなストレスを感じることはない。

幅広いジャンルのプレイリスト

ひとまず提示された『オールジャンル ヒッツ』というプレイリストを見てみるとGReeeeNの『キセキ』、AKB48の『恋するフォーチュンクッキー』など近年のヒット曲やwinkの『淋しい熱帯魚』、KANの『愛は勝つ』など懐かしの名曲、スティービー・ワンダー、テイラー・スウィフト、レディー・ガガ、アヴィーチーなどポップスからクラブ系までの洋楽、matryoshka、M83等エレクトロニカ寄りな音楽、アニメ進撃の巨人のOP『紅蓮の弓矢』や『銀河鉄道999』などのアニソン、ビル・エヴァンスやジョン・コルトレーン、チック・コリアといったジャズアーティスト。他にもロック、パンク、クラシックと古今東西の幅広い名曲を揃えていることを感じさせる。

他のプレイリストを見てもやや楽曲の少なさに苦しんだような跡が見られはするが歴史的な名曲がいくつも入っているのが見える。プレイリストを中心に聴いていればしばらくの間は楽しめるかもしれない。

検索機能

ただ検索機能は少し使いづらい。検索窓にキーワードを入力するとキーワードに関連したアーティスト、アルバムが表示されるがアーティストの項目をクリックするといきなりプライムミュージックに登録された全楽曲が並ぶページに飛ばされる。

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AKB48のアーティストページ

一応アルバム毎にフォルダ分けされているが曲名を表示させずアルバムだけを表示することはできないようだった。数えてみたところバージョン違いやカラオケ含め全部で700曲以上あった。少なくともAKBでは『名前が思い出せないけど人気なあのアルバムのあの曲』を聴こうと思ったとしても見つけるのはかなり困難だ。

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©Amazon.com

もちろんアルバムの項目から探していけばずっと楽になるだろうが、特定のアーティストのアルバムをひとまとめに表示できないのは大きな痛手だ。

たとえばの話だが、ASHというバンドのアルバムを探そうとした時に『ASH』と検索をかけるとアルバム一覧に『ASH』の他に『Ashra』『Ash ra tempel』『Ashanti』といったキーワードを含む名前のアーティストのアルバムまでもが並んでしまうことになる。不幸中の幸いなのかプライムミュージックにはASHもAshraもAsh ra tempelもAshantiも登録されていなかったが。

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『ASH』で検索

一番上のKevin Drewの代表曲は『Summer Ashes』

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©Amazon.com

ちなみに、他の定額制音楽配信サービスはアーティストページに飛ぶと人気の曲とアルバム一覧をきちんと表示してくれる。

サジェスト機能

さて、Amazonといえば精度の高いサジェスト機能が有名だ。何か商品を買えばその関連商品をこれでもかというほど表示してくれる。プライムミュージックも『おすすめ』として再生した楽曲に関連したアルバム、楽曲を表示してくれる。

のだが、これもやや心許ない。記者はひとまずプライムミュージックでカーペンターズ、ゴダイゴ、マルーン5、スティービー・ワンダー、キッス、セックス・ピストルズ、フランク・ザッパを再生してみたが、サジェストに反映されたのは最初の4つだけだった。表記順に再生したわけではないので最初に再生したものだけが反映されたというわけではない。単に再生したとしてもサジェストに反映されないアーティストがいる、あるいは再生の方法によってはサジェストに反映されない可能性があると考えるのが妥当だろう。これもアーティストページに飛ぶと関連アーティストを表示してくれる他サービスに比べるとだいぶ見劣りしてしまう。

他にも色々と試してみたがスマホでQueenの『I was born to love you』を再生しようとしたところストリーミングがうまくいかなかったのか激しい音飛びが起きてOneohtrix Point Neverの新譜のようになってしまったというアクシデントが確認されたくらいだった。なお、何度再生しなおしても音飛びは直らなかった。

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なお記者はiphoneユーザーなのでAndroid用アプリでの試用はおこなっていないが、恐らくAndroid用もそう大差はないだろう。

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©Amazon.com

結論

楽曲数に目をつぶればかなり良いサービスなのではないかと予想していたが思った以上に使いづらい面が多く、月に320円も払って利用するに値するサービスかと問われるとかなり厳しいものだというのが実際に触ってみた感想だ。PCでの使用や検索機能に関してはこれからのアップデートでかなり改善されることになるだろうが、サジェストに関しては元々の楽曲が少ないので改善できたとしても普段のAmazonのような幅広いものは期待できそうにない。

既にプライム会員の方は利用してみるのも悪くないが、プライム会員に登録していない方、あるいは既に他の音楽配信サービスを利用している方は登録や乗り換えはたとえ『自分はライト層である』という自負があったとしてもひとまず見送った方が懸命だろう。

余談ではあるが記者はApple Musicを利用しているのだが今回の記事を書くにあたりその他の音楽配信サービスも試用してみた。海外の音楽はApple Musicと大差ないが国内の音楽はインディーズレーベル以外はGoogle Play Musicの方が数多く求める音楽が出てきたため乗り換えを考えたが『米米CLUB』で検索してみたところ『米米CLUB』という名前のアーティストが57個も出てきた(どういう分け方になっているかはわからないが試しに二、三の米米CLUBを開いてみると複数のアルバムから数曲が登録されていた)ので、どうすべきか少し迷っている。

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米米CLUBの検索結果

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©Google

REFERENCE:

日経プレスリリース

日経プレスリリース

http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=400918&lindID=1

Amazon、プライム会員向け音楽聴き放題「プライムミュージック」開始。100万曲以上 – AV Watch

http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20151118_731164.html