難破したタイタニックを発見したことで有名な海洋考古学者ロバート・バラード博士率いるノーチラス号が、深海で新たな奇妙な生物に遭遇しました。細長いノコギリのようなものを鼻先につけ、ゆらゆらと遊泳する青色のその生物はクダクラゲの新種なのだそうです。

What lives in the darkness under the sea… a co-lo-ny of zooids! (that was sung in the Spongebob theme song in case you were unaware).

新種発見

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まるでチェーンソーのようなシルエット。平たいノコギリ状の部分は細かく波打って、ボディ部分がそれに追随しています。ボディには背骨のような筋があり、ふさふさとした藻のような繊毛がその周りを囲んでいます。この生物は新種の『クダクラゲ』(siphonophore)というものです。クダクラゲは現在180ほどの種類が確認されています。多数の小さな生き物(個虫)が集まって一つの生命体を成す『群体生物』の一種です。

今回発見されたクダクラゲの姿。

クダクラゲの仲間として比較的有名なものには『カツオノエボシ』がいます。透明な浮き袋で海上を漂うクラゲに似た生物で、電気クラゲの別名を持つ強力な毒を持ち、アナフィラキシーショックで人が死亡した例もあります。

群体生物クダクラゲは軍隊生物?

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ひとつひとつが個々の生物でありながら一体となって活動している。

クダクラゲの体を形成する一つ一つの個虫は、それぞれ、高度に専門化された独自の役割を担っています。捕食担当、遊泳担当、生殖担当、危険から身を守る担当など、さながら軍隊のように様々な役割分担があります。それらの個虫が協働して、一つの生物として統合されているのです。ある専門分野を持った個虫は、その役割以外のことはできません。例えば捕食担当の個虫は、泳ぐことはできず、遊泳担当の個虫は食べることができません。自分ができないことは、ほかの個虫に頼り、お互いに協力し合って一つのコロニーを形作っているのです。

それぞれの個虫は、どこからかばらばらに集まってきたわけではなく、受精卵から生まれて成長した一つの個虫から次々に萌出してきたものです。私たち人間の細胞分裂と同じように、複雑な過程を経て増殖し、成熟したコロニーとなります。
ちなみに、多数の個虫からなる群体生物の一つにサンゴもありますが、サンゴにおける個虫は、みな均一な役割を持つのみなので、分業制度のクダクラゲとは異なっています。

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水中に咲いた花のようにも見える幻想的な姿をしているものもいる。

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Oceans Magazine

全体は一、一は全体

クダクラゲのもう一つの特徴は、個虫がそれぞれ非常に正確なパターンで配列されるということです。クダクラゲは世界一長い生き物で、大きいもので50mもあり、一見すると単純な長いロープのようですが、それを形成する個虫は、一定の決まったパターンで配置されているのです。
クダクラゲを捕まえたり、標本にしたりするのは、きわめて困難なことであるといいます。個虫の寄せ集まりのコロニーであるため、ちょっとした衝撃ですぐにバラバラになってしまうのです。そのせいもあり、クダクラゲのしくみや生態についてはまだ分かっていないことも多いようです。

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一体の長い生き物に見えるこれも無数の個虫が集まってこの姿を形成している。

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Wired

お互いにない機能を持った、小さな生物たちがゆるくつながりあい、協働しているひとつの生物クダクラゲ。一つ一つが生き物でありつつ、全体としても一つの生き物であるという、なんだかすぐには飲み込めないような哲学的な事態が、クダクラゲの世界では普通なのです。クダクラゲからすれば、私たちのような単独の生物のほうが奇妙なのかもしれません。まあ、クダクラゲには考える脳のような部分はないようなので、そう思うことはないでしょうが。