今からおよそ120年前の1897年、イギリスの若き考古学者バーナード・グレンフェルとアーサー・ハントは、エジプト・カイロから約160km南西にある都市、オクシリンコスの遺跡を訪れていた。当時まだその重要性がわかっていなかったオクシリンコスだったが、『ただの砂丘』だと思われていた場所を彼らが掘り返すと、そこからはおびただしい量のパピルス古文書が発見されたという。その数じつに50万枚以上、その解読作業は現在まで続いている。しかも、なんとオンラインで

Tales of tragedy written on papyrus that lay hidden for centuries in an Ancient Egyptian rubbish dump have been revealed after being pieced together with the help of a small army of citizen scientists.

歴史の『安楽椅子探偵』たち

オクシリンコスでの発掘作業が終了したのは1907年、バーナードとアーサーが最初に古文書を発掘してから10年後のことだった。見つかった古文書はロンドンのエジプト探検教会が所有することになり、研究のためオックスフォードのサックラー図書館へ移されている。しかしこの古文書研究には、あまりにも解読に時間がかかるという問題があった。1898年から2012年までの114年で解読された文書は5,000枚、全体のわずか1%にとどまったのである。

1896年、バーナード・グレンフェル(左)とアーサー・ハント(右)

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Scanned from Biblical Archaeology Review March/April 2011 vol 37 No2 pg 63

解読オンライン・プロジェクト、始動

このままのペースではすべてを解読するのに1万年以上かかる……。そこで2011年に発足したのが『Ancient Lives Project』だった。オックスフォード大学で古文書学とギリシャ文学を教えるディルク・オビンク教授率いるこのプロジェクトは、現在、古代ギリシャ語のアルファベットを学んで古文書の解読にあたるオンライン・ボランティアをなんと25万人も募っている。

オビンク教授は「世界最大の考古学プロジェクトのひとつを一般に公開したことで、10万から20万以上もの古文書を翻訳する仕事を、資料の実物や拡大鏡を持ったひとりの学者の範囲を超えたところに進められるようになった」と述べている。プロジェクトのウェブサイトでは実際に古文書の翻訳に挑戦することができ、現在も多くのボランティアが自宅などから古文書の解読にあたっているというわけだ。

安楽椅子探偵

現場に行くことなく事件を推理する探偵。

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INDIGO

2011年の試験運用当初は、古代ギリシャ語の基礎知識を持った者だけが古文書を閲覧でき、また解読に協力することが許されていたという。のちにオックスフォード大学が既存のテキストをもとに翻訳をチェックするアルゴリズムを開発したことで、プロジェクトに協力するためのハードルは大きく下がった。いまや「ギリシャ語のアルファベットをかんたんに教わった学生でも参加できる」という。

これまで明らかになったのは、オクシリンコスで発掘された古文書が主に紀元前1世紀から(紀元後)7世紀までに書かれたものであることだ。その内容は課税査定書類や買い物リスト、結婚証明書や遺書などの私文書から、公式書簡や裁判記録など公文書まで幅広かった(中には二日酔いや白内障の治療法や、当時のレスラーが八百長を行っていた記録もある)。全体の約10%は文学に関するもので、古代ギリシャ三大悲劇詩人のひとり・ソフォクレスの未発見戯曲や、それまで知られていなかったキリスト教の福音書も見つかっている。

聖書、あとから脚色されていた?

2011年に解読された古文書には、イエスが男性の身体から悪霊を追い出すエピソードが確認された。この話は「ルカによる福音書」や「マタイによる福音書」にも登場するものだが、そちらにはイエスが悪霊を豚に憑依させて湖へ飛び込ませるくだりが追加されている。オビンク教授は聖書の物語が『脚色』されている可能性を示唆した。

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文学の歴史に新たな1ページ

このたび、オビンク教授ら『Ancient Lives Project』チームは最新の研究結果を発表している。新たに解読された古文書には、3世紀の医師による報告書(奴隷であった13歳の少女が友人と泳いでいる最中に溺死したこと)や、文学的に重要な資料が含まれていたという。

紀元前2世紀、エゼキエルという決して有名ではない作家がいた。現在まで唯一語り継がれている彼の作品は『Exagōgē』、その主人公は旧約聖書にも登場するモーゼである。しかしこの作品は(紀元後)4世紀にキリスト教史家のエウセビオスらが著書に引用しているだけで、本当に実在する作品かどうかはわかっていなかった。しかし今回、古文書に『Exagōgē』の一部、モーゼが母との出会いを語るせりふが見つかったという。オビンク教授は「文学の『空白』に肉付けをすることができる」と述べている。

エウリピデス

古代ギリシャ三大悲劇詩人のひとり。散逸していた戯曲『アンドロメダ』の一部も今回の解読で発見されている。

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『Ancient Lives Project』では、現在も古文書の解読作業が日々行われている。しかし、その作業に終わりが来るのはまだ遥かに遠い未来だろう……。ウェブサイトではつねに古文書のデータを確認できるほか、ボランティアも随時募集されている。我こそはという方は、ぜひ歴史の『安楽椅子探偵』に名乗りを上げてみてほしい。

こんなふうに自宅から解読作業に参加できる。

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ANCIENT LIVES

REFERENCE:

Ancient Egypt: Citizen scientists reveal tales of tragedy unearthed from centuries-old rubbish dump

Ancient Egypt: Citizen scientists reveal tales of tragedy unearthed from centuries-old rubbish dump

http://www.independent.co.uk/news/science/ancient-egypt-citizen-scientists-reveal-tales-of-tragedy-unearthed-from-centuries-old-rubbish-dump-a6905541.html

Thousands of ancient Egyptian texts have just been deciphered, revealing hangover cures and death notes

http://www.sciencealert.com/thousands-of-ancient-egyptian-texts-have-just-been-deciphered-revealing-hangover-cures-and-death-notes

Armchair archaeologists reveal details of life in ancient Egypt

http://theartnewspaper.com/news/armchair-archaeologists-reveal-details-of-life-in-ancient-egypt/

オクシリンコス – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/オクシリンコス

マタイによる福音書8章「すべての主」 – ロゴス・ミニストリー

http://www.logos-ministries.org/new_b/mt8.html

Ezekiel the Tragedian – Wikipedia

http://en.wikipedia.org/wiki/Ezekiel_the_Tragedian

ANCIENT LIVES

http://www.ancientlives.org/