互いに想い合いながらも結ばれない男女が、その想いを果たすため共に命を絶つことを、『心中』もしくは『情死』と呼びます。日本では1700年頃に多発し、その流行ぶりは、慌てた江戸幕府が心中事件に厳罰を課したほどでした。

それからさらに遡ること、今からじつに約7,500万年前、モンゴルのゴビ砂漠で『心中』した一組の恐竜の男女がいました。恐竜全体の絶滅より、さらに1,000万年ほど前のことです。

A dinosaur couple that appears to have died together after wooing each other has been identified in remains unearthed at the Gobi Desert in Mongolia.

2011年、アルバータ大学の大学院生スコット・パーソンズ氏は、オヴィラプトルと呼ばれる恐竜についての研究成果を発表しました。そこで対象になった2匹のオヴィラプトルこそ、ゴビ砂漠で発見された一組の男女だったのです。

しかしスコット氏は「化石は性別の明らかな情報をほとんど示さないため、恐竜の性別を判断することはとても難しい」と述べています。

スコット・パーソンズ氏(右)

image by

PHYS.ORG

ではスコット氏は、なぜ彼らが一組の『男女』だったということを突き止められたのでしょうか?

恐竜の性別

オヴィラプトルは、その体つきが鳥によく似ています。とはいえ二足歩行の肉食恐竜であり、他の恐竜の卵を食べるために盗むことから『卵泥棒』という不名誉な呼び名を与えられてもいるのです。

オヴィラプトル(イメージ)

image by

pixgood.com

スコット氏は研究のため、オヴィラプトルの化石と、解剖された現代の鳥を比較しています。

彼が注目したのは、オヴィラプトルの尻尾の先端にある羽でした。陸上で生活していた彼らの羽は、飛ぶためのものではありません。

スコット氏は「七面鳥やクジャクと同じように、尻尾は求愛をアピールするために使われていたのではないか」と分析しています。尻尾の柔軟性や筋組織の広がりが、求愛行動に役立っていたと推測しているのです。

シロクジャクの求愛行動

羽を広げてアピール。

image by

動物園放浪記

ゴビ砂漠で発見された2匹は、スコット氏も「同じサイズに同じ年齢で、解剖学的にはすべての点で同じだった」と述べるように大変よく似ていたといいます。しかし、そんな2匹にも異なる点がありました。尾骨の形状です。

片方のオヴィラプトルの尾骨は、大きく特殊な形状をしていました。スコット氏によると、その大きさは求愛をアピールするためのもので、おそらくオスに特有だといいます。

一方、もう片方の尾骨は短くシンプルな形で、そのサイズは羽を振って求愛しながら歩くには小さいものでした。こうした違いは、現在の鳥のオス・メスにも一致する差だといいます。

ディズニー映画『ダイナソー』にも登場。

でもいろいろ違う。

image by

THE DISNEY WIKI

スコット氏の研究によって『一組の男女』だと判明した2匹のオヴィラプトルは、それぞれ「ロミオ」「ジュリエット」と名付けられました。

「ああロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」

「尾骨が大きいからさ」

image by

galleryhip.com

ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』は、互いの家の対立によって、愛し合いながらも引き裂かれてしまう男女の悲劇です。この作品は、現在も一種の『心中もの』として現在も語られています。

つまり、その主人公の名を付けられた2匹のオヴィラプトルは、その死から約7,500万年経ってから、『心中』したカップルだと見なされたことになります。しかし実際、ゴビ砂漠で彼らの身に何が起きたのでしょうか……。

『ロミオとジュリエット』

ロミオと再会するため、ジュリエットは薬を飲んで仮死状態となり、墓場で再会しようとする。しかし計画を知らないロミオは、ジュリエットが死んだと勘違いして、毒を飲み自殺。目覚めた彼女は絶望すると、短剣で胸を突いて命を絶つ。

image by

Amazon.co.jp

オヴィラプトルの化石が発見された場所では、地質調査が行われています。その結果、2匹の死因が大雨による砂丘の崩壊だったことが判明しました。彼らは生きたまま、降ってくる砂の中に埋められてしまったのです。すなわち彼らは事故死であって、決して『心中』ではありません。

そこまで分かっていながら、どうして人間は、遥か昔の恐竜の死をも『心中』として扱ってしまうのでしょうか……。

仮に『心中』でも、『ロミオとジュリエット』よりオペラ『アイーダ』のほうが近い

主人公の男女は地下牢に生き埋めにされる。

image by

イタリア文化会館 東京

来世思想

かつて、心中が流行した江戸時代の日本では、「この世で結ばれない男女も、情死すれば来世で結ばれる」という思想が信じられていました。たとえば近松門左衛門の『曾根崎心中』など、当時の『心中もの』の作品にも、「ともに死んでせめて来世は」と願う男女の心理が描かれています。

2匹のオヴィラプトル

image by

PHYS.ORG

残念ながら、掘り出された化石からは「ロミオ」と「ジュリエット」が何を思ってゴビ砂漠に立っていたかを知ることはできません。

しかし報告によると、2匹の化石が発掘されたとき、そのあいだの距離はわずか20cmしか開いていなかったといいます。互いに身を寄せ合って、7,500万年間ともに眠りつづけてきた『一組の男女』……。そう考えると、私たちは彼らの死を『心中』と呼んでもいいような気がしてきます。

では、彼らは来世で再び出会うことができたのでしょうか。それとも、再会はとうとう果たされなかったのでしょうか。そんなことに思いを馳せるのは、もはや祈ることにも近い行為なのかもしれません。

REFERENCE:

Dinosaur ‘Romeo and Juliet’ Found Buried Together