暑い夏がやってきて、なかなか仕事に身が入らず、しかしやるべきことは増えていく……。そんなとき、あなたはどうしていますか? 場所を変える、体勢を変える、いっそまったく違うことをやってみるなど、その方法は千差万別でしょう。なかには、常にイヤホンを持ち歩いていて、集中したいときには音楽が手放せない方もいるかもしれません。

今回の記事は、その『音楽』と『集中』の話です。集中するのに適した音楽とはなにか、その処方箋を出すことはできるのでしょうか?

Oftentimes we have innumerable distractions at work competing for our attention.
Luckily, music can help put us back on a more productive track.

好みは影響するか

ポータブル音楽プレイヤーどころではなく、いまや手元のスマホで音楽を聴く人も多いことでしょう。しかし、多くの人は自分のスマホに自分の好みの曲を入れているはずです。つまり最初の疑問は、好みの曲を聴いたときに集中力は上がるのか、ということになります。

この疑問については、マイアミ大学で音楽療法を教えるテレサ・ルジウ氏の研究が参考になります。いわく、仕事にある程度熟練した者にとっては、音楽を個人の好みで選べることが重要だといいます。音楽を楽しみながら仕事に取り組んだ者は、そうでなかった者よりも迅速に自らのタスクを完了し、また優れたアイデアを思いついたというのです。

テレサ氏は「ポジティブな気分だと、より多くの選択肢から判断することができる」という。

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気をつけなければならないのは、『熟練した者にとっては』という限定がなされていることでしょう。仕事の初心者のなかには、音楽によって集中力を欠いてしまった例もあったようです。また、台湾の輔仁大学でも、楽曲への思い入れと集中力の関係についての研究が行われていますが、こちらはテレサ氏の研究とは結果が異なりました。仕事中のBGMに『好き』もしくは『嫌い』という印象を持った者は、それによって自身の注意が逸れてしまったといいます。

仕事に熟練している者は好みの曲を、そうでない者は好きでも嫌いでもない曲を聴くべし。

条件から考える

では、好み云々はさておき、どのような条件をもつ楽曲が集中するのに向いているのでしょうか。

たとえばケンブリッジ・サウンド・マネジメントは、『言葉』が集中力を削ぐ可能性について言及しています。明瞭な言葉が耳に飛びこんできた途端、私たちの意識は、仕事から『その人がなにを言っているか』ということにずれてしまうというのです。たしかに、不意に聞こえた言葉が気になるという経験は誰にでもあるでしょう。つまり、周囲の会話を遮断するために歌詞のある曲を聴いても、問題はさほど変わらないのかもしれません。

調査では、オフィスワーカーの48%が『言葉』によって集中力を削がれたことがあると答えている。

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また、ボルチモアのメリーランド大学などを中心に実施された研究では、バロック音楽の有用性が報告されました。研究に参加した放射線医たちは、バロック音楽によって、自身の仕事や気分が改善されたと述べたのです。一方で、マレーシアでの研究によると、BPM60(毎分60拍)の音楽を聴くと、身体のリラックス効果やストレスの減少を感じることができるといいます。

ちなみにイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究によれば、創造的な思考には中くらいの音量が向いているということです。あまりに大音量で聴いてしまうと、情報を処理するという脳の働きがうまくいかなくなってしまうとか……。

パッヘルベルのカノン

言わずと知れたバロック音楽の超有名曲。

Drastik Adhesive Force「melody」

BPM60の低速ダンス・ミュージック。リラックスできる?

バロック音楽やBPM60の楽曲を中くらいの音量で聴くべし。
歌詞のある曲は避けるのが無難。

音でリラックスする

こうしてまとめていくと、前提として『音楽によって逆に集中力が削がれる』という事態を避けつつ、やはりきちんとリラックスできることが大切であるようです。集中しなければならないと思うあまり、緊張感が高まってしまっては逆効果ということかもしれません。ですから、ときにはリラックスに特化した音を聴きながら作業してみるのもよさそうです。

Marconi Union「Weightless」

イギリス音楽療法学会と共同制作された、心拍数・血圧・ストレスホルモンが軽減すると証明された楽曲。リラックスしすぎて睡魔に襲われた人すらいる。こちらは約10時間のループ版。

「focus@will」

科学的根拠に基づいた、集中力と生産性を高めるための音楽ストリーミング・サービス。

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Kiss 92.5

音楽じゃなくてもいい疑惑

しかし、ここまでやるなら、もはや無理に音楽に頼らなくてもいいのではないか……。ご安心ください、そんな方のための発明もあります。

たとえば、環境音をパソコンやスマホで聴けるウェブサービス「Coffitivity」を使えば、『朝のざわめき』『昼どきのラウンジ』『大学でのこそこそ話』など、日ごろは気にも留めないような音をあえて聴きながら作業に取り組むことができます。また、筆記ボード「Write More」は、iPhoneと繋ぐことで筆記音を増幅させられるというものです。もっとも、それで集中できるかどうかは人それぞれかもしれませんが……。

「Write More」

手書き派にとっては号泣もの?

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Dream News

たとえ音楽でなくても、自分のリラックスできる『音』を見つけるべし。

一方、これまで自然の音には、「1/fゆらぎ」という適度に不規則なゆらぎが含まれているといわれてきました。この『ゆらぎ』が脳のα波(リラックス状態のときに出る)を導くという説もありましたが、人体に与える科学的証明はほとんどなされていない、とされていたのです。

しかしこのたび、アメリカのレンセラー工科大学が、自然の音と集中力の関係についての研究を実施しました。その結果、自然の音には人間の認知能力や集中力を高め、気分を上昇させる効果があることがわかったのです。いわく、自然の音はさまざまなノイズや人々の『言葉』をうまく遮ることができ、人々の生産性を高めることができるといいます。

研究には渓流の音が使われた。

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たとえばどんなに暑い日でも、渓流のそば、日陰にちょっとしたデスクを構えて、バロック音楽を中くらいの音量で聴きながら、おもむろに仕事することができたなら……。もしかすると人間は、普通にデスクに向かっているときよりも、格段の生産性を発揮できるのかもしれません。もっとも、それを人は『休み』と呼ぶのでしょう。

信じられない量のタスクが降りかかってきて、働けど働けどわが生活(くらし)楽にならざり、じっと手を見る。しかし一度じっと手を見ようものなら、切れてしまった集中力はなかなか戻らず、焦れば焦るほど緊張感は高まり、そのあいだにもタスクは増えつづけていく。ここまで読んでくださった方のなかにも、まさに今そのさなかにいる、という方がいるかもしれません……。生産性を高めるのはもちろんいいことですが、けしてご無理のないようにしてください。

たまにはきちんと休みを取るべし。

よい夏休みが訪れますように。

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REFERENCE:

The best music to listen to for optimal productivity, according to science

The best music to listen to for optimal productivity, according to science

http://www.businessinsider.com.au/the-best-music-for-productivity-2015-7

仕事の邪魔をしない(むしろ集中力と生産性を高める)音楽だけを流すストリーミングサービスfocus@will

http://jp.techcrunch.com/2013/06/01/20130531focus-at-will-ios/

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http://issueplusdesign.jp/writemore/

Coffitivity | The Sounds of Productivity

https://coffitivity.com/

SCIENTISTS DISCOVER MOST RELAXING TUNE EVER

http://www.shortlist.com/entertainment/music/scientists-discover-most-relaxing-tune-ever

1/fゆらぎ – Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/1/fゆらぎ