SF小説やコミック、映画などに現れる『人造人間』。アンドロイドやロボットという意味では、すでに彼らは、比較的身近なところにも姿を見せています。しかし、生命体に科学技術を融合させるサイボーグという意味であれば、その存在を近くに感じることはまだ難しいでしょう。技術は発達したものの、自分自身の身体を改造するイメージはまだ湧きづらいかもしれません。

しかし、すでにその予兆は現実に起きつつあります。3Dプリンタで身体器官を『印刷』することで身体機能を改変する時代が、そう遠くない未来にはやってくることになりそうです。

An Italian generative design studio, MHOX, launched an ambitious project to reinvent the human eye by means of 3D bioink printing.

3Dバイオプリント

昨今急激に浸透した『3Dプリント』の発展形として、細胞をインクにして臓器などの器官を『印刷』できる技術が『3Dバイオプリント』です。現在、国内外の機関で研究・開発が進められています。

すでに、腎臓や耳、血管を3Dプリントで作り出すことができるようになったといいます。将来的には、3Dプリントによる臓器とダメージを受けた臓器を交換するなど、再生医療の分野における実用化が目指されているようです。

3Dバイオプリンター『BioBots』

なんと5,000ドル。

image by

3Dwave

プロジェクト『EYE』

そんな流れのなか、イタリアのデザインスタジオ・MHOXは、人間の眼に革新をもたらすプロジェクト『EYE』の実施を発表しました。

“Enhance Your Eye”(あなたの眼を改良する)の略称が与えられたこのプロジェクトは、3Dバイオプリントによって3種類の『人工眼球』を作り出すというものです。人間の眼球はとても複雑な構造をしており、他の器官よりも再現は難しいものの、それは決して不可能ではないといいます。

眼球の構造

ダーウィンもその驚異を「不条理」とすら述べている。

image by

Getty Images

経営者兼デザイナーのフィリッポ・ナセッティ氏は、この『EYE』を、眼の機能を失った人だけでなく、生活を彩りたいと考えている人のためにもしたいと考えています。つまり、人工眼球は医療のためだけでなく、生活を充実させるためのガジェットとして開発されるようなのです。

とはいえ、導入への敷居は決して低くはありません。人工眼球を利用するには、ユーザは自身の『視覚』を、まずは手術によって失わなければならないのです。その後、新たな眼球と『デッキ』と呼ばれる人工網膜を、自らの視神経に接続します。

また、眼球は次の3つのうちから選ぶことができ、それぞれ異なる機能を持っています。

EYE HEAL:盲目や眼の病を解決する
EYE ENHANCE:視力を最大1.5程度に回復する。視界にフィルタを掛けることができる
EYE ADVANCE:一人称視点のビデオを撮影可能。

image by

dazeen

また、視界にモノクロなどのフィルタを掛けるには、ユーザが専用のピルを服用すればよいということです。まるでカメラアプリのように、視界の色調を簡単に調整できるようになるのかもしれません。

また、人工眼球はWi-Fiに対応しており、撮影した映像をライブ配信したり、互換性のあるデバイスと共有することも可能だということです。

トイカメラ風の視界も可能になる?

image by

Getty Images

このプロジェクト『EYE』では、2027年までの実用化が目指されているといいます。しかし、現時点でこの技術をどのように人間に適用するのか、効果が得られたことをどのように実証するのかは明らかにされていないようです……。

3Dプリンタでサイボーグは造れるか

フィリッポ氏は「人間を3Dプリントで完全に再現することは、少なくとも技術的な理由でとても難しい」と述べています。しかし、彼は同時に「身体の器官を3Dプリントで生成して実際のものと交換する試みは、デザイナーが取り組みはじめるべき現代的問題である」とも考えているようです。

視力改善はまだしも、見える風景をそのまま録画して他者と共有できるという機能は、人間の『視覚』が持っている機能を拡張し、外部化するものです。もし実現すれば、人間の『記憶』というものの概念はもちろん、プライバシーなどの考え方にも大きな転換が生じることになるのかもしれません。

NO MORE 視界泥棒!

image by

ねとらぼ

今回発表されたのは『人工眼球』のプロジェクトですが、このまま研究が続けられていけば、他の器官も次々と3Dプリンタで作り出せるようになり、その機能はどんどん向上していくことでしょう。確かに便利なことですが、もしも私たちが本来の機能を捨てていった結果、現在の身体機能は、子孫たちの身体にも引き継がれていくのでしょうか?

かつて想像したサイボーグとは、マッド・サイエンティストの危険な研究と実験の末に生まれてくるような存在でした。しかし、思い描いていた姿とは異なり、サイボーグは将来的に家庭のプリンタから生まれてくることになりそうです。ただし、それほど容易に身体を改造できる未来がやってきたとき、私たちの身体は、もはやその形や機能を変えてしまっているかもしれません。

REFERENCE:

Scientists Are Making 3D-Printed Eyes That Will Record What You See

Scientists Are Making 3D-Printed Eyes That Will Record What You See

http://elitedaily.com/news/technology/bioprinted-eyes-see-filters-record-photos/1012665/

Artificial eyes to offer ability to record video, says firm

http://www.redorbit.com/news/technology/1113376284/artificial-eyes-to-offer-ability-to-record-video-says-firm-042215/

MHOX envisions a future of bioprinted and enhanced human eyes

http://www.dezeen.com/2015/03/19/mhox-enhance-your-eye-bioprint-synthetic-wifi-connected-human-eyes/

生きた細胞をインクジェットで打ち出す「3Dバイオプリンター」

http://kenko100.jp/articles/131115002691/