9月18日、MITは宇宙空間での活動を改良した新設計の”形状記憶合金”宇宙服(バイオスーツ)を発表しました。本研究はNASAの資金提供により行われました。

バイオスーツの研究背景

1965年にソ連の宇宙飛行士が人類初の宇宙遊泳を行った時、宇宙服は膨張して硬くなりました。そのため宇宙飛行士レオーノフは宇宙船に戻るのに大変な苦労をしました。それから宇宙の無重力空間で活動するときには身体に適切な圧力(重力の約3分の1程度)を与圧し続けて宇宙服の膨張を防ぐようになりました。宇宙服は頭部への酸素供給だけでなく、ガスで身体を与圧しています。結果として宇宙服は非常に重く(100キロ程度)、かさばりました。また着たり脱いだりも大変な作業です。動きにくく細かい作業も難しくなりました。

Leonow,_Alexei

アレクセイ・レオーノフ

ソビエト連邦において、1960年にユーリイ・ガガーリンらとともに最初の宇宙飛行士として空軍から選抜された20人のうちの一人であった。
1965年3月18日7時UTCにボスホート2号に搭乗し、パベル・ベリャーエフ大佐とともにバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。このとき、宇宙服(ベールクト宇宙服)内の気圧が上がりすぎ、服全体が膨張し、手を握ることも出来ず、エアロックを通って船内に戻ることが出来なくなったため、与圧バルブを開いて空気を逃がして漸く事なきを得た。 –Wikipedia

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ベールクト宇宙服

ボスホート2号ミッションによる世界初の宇宙遊泳に使用された宇宙服。この宇宙服は2つの圧力設定(0.27 atm, 0.40 atm)が可能だった。生命維持装置はバックパックに収納しており、45分間の活動に必要な、十分な量の酸素を供給出来た。宇宙服を着た状態での運動は著しく制限された。 –Wikipedia

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Lobanov Andrey – Source Gallery. Licensed under Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 via ウィキメディア・コモンズ

これらの問題を解決するため、MITは形状記憶合金を用いてガスの代わりに身体をバネで与圧するバイオスーツを試作しました。今回使う形状記憶合金には、温度を上げると、低い温度で変形した合金が元の形状に回復するという特徴があります。この性質を応用した有名な商品の例が女性用下着です(洗濯で変形しても着用すると体温で元の形状と肌触りを回復します)。バイオスーツは形状記憶合金を宇宙空間環境に合うように開発して作られているのです。

バイオスーツの構造

バイオスーツはヘルメット以外、ガス気密構造が不要です。形状記憶合金を、伸び縮みしやすく頑丈なエラストマー繊維に組み込むことで、危険な微小隕石の衝撃でも損傷することが少ない十分な強度を有することができました。

バイオスーツの内部構造は、与圧する形状記憶合金コイルとそのバンドで構成されています。MITは14種類の形状記憶合金を検討しニッケルチタン合金を採用しました。今までのロボット研究で得た知見を応用しています。今回の試作では60~160℃環境で与圧可能であることを確認しました。

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形状記憶合金コイルとエラストマー繊維

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Jose-Luis Olivares/MIT

今後の課題と他の用途への応用

実際の宇宙空間では、宇宙飛行士の体温は太陽の光により高温(120℃程度)まで上がることもあれば、光が届かないときは低温(-160℃程度)に下がることがあります。今回達成した温度より、さらに作業環境の温度が変化することがあるのです。それらのときも宇宙飛行士の体型にあわせて、バイオスーツは身体に適度な圧力を与え続けなければなりません。そのためMITは温度がさらに変動してもさらなる電力を使わずにバイオスーツへの与圧保持ができるように、構造の改善を検討しています。
また今回開発された技術はスポーツウェアや戦闘服にも応用でき、行動中に着用している人の能力を存分に発揮できると期待されているそうです。