文書、紙幣、入場券、キャッシュカード。人類は古くから偽造と対策のいたちごっこを続け、その間に技術も発展してきました。今では印刷物を発光させるところまで辿り着いたようです。

10月2日、大日本印刷株式会社(本社:東京 社長:北島義俊 資本金:1,144億円 以下:DNP)は金券などの印刷物に切る、折り曲げる、引っ掻くなど力を加えるとインキが発光する「応力発光印刷」を実用化したと発表しました。

世界初! 圧力がかかると発光する「応力発光印刷」を実用化

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DNP

応力発光とは

応力発光体と呼ばれる、特殊な分子構造の物質に圧力が掛かると発光するという現象です。応力発光現象自体は古くから知られており、例えば中世ルネッサンスの哲学者ベーコンは、砂糖を暗闇で砕いた時に発光を観察し自著に残していました。現代では、建築物の強度確認をするために構造物にかかる力を色で表す研究が広く行われています。

印刷への応用

一方、今回開発されたのは応力発光体を応用した顔料インキです。紙などに印刷し、曲げたりちぎったりして力を掛けると緑色に光ります。一度発光が終わっても、再度光を当てて蓄光すればまた光るようになります。

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DNP

これまでの研究で、SEAO(ストロンチウム・ ユウロピウム・アルミニウム・酸素からなる化合物)を用いると応力によって強い緑色発光を示すことがわかりました。(ただしそのメカニズムは完全には解明されていません。)左の写真は堺化学工業が実用化した、応力発光材料を含む樹脂の球体に力をかけたときの発光現象です。

堺

応力発光体を含む円形樹脂成型体に対して、上から荷重をかけた際の発光の様子

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堺化学工業株式会社

偽造防止技術としての用途

紙幣のように比較的面積があり、多くの人に繰り返し使われる印刷物ではすかし・ホログラム・ポリマー紙幣などの高度な技術を組み合わせて偽造を防止しています。

すかし

すかし

印刷する前の用紙に薄い部分と厚い部分を配置して、すかし絵や文字を描く。

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文鉄・お札とコインの資料館

ホログラム

ホログラム

すかしにかわる最近の偽造防止対策。写真は韓国の10000ウォン券で、見る角度により金属箔に浮かび上がる画が額面、韓国国旗、韓半島に変わる。

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文鉄・お札とコインの資料館

ポリマー

ポリマー紙幣

合成樹脂で作った紙幣。一部分を印刷せず、透明のままにできる。上の10オーストラリアドル券の透明窓では後ろに置いた日本の2000円券が見えている。

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文鉄・お札とコインの資料館

一方、コンサートチケットのようなイベント用途の印刷物の場合、多くの人を速やかに入場させるため、確認を素早く、容易に、かつ確実に行う必要があります。紙幣で使う見分けの技術は、会場での作業としては時間がかかりすぎる上、使い捨てのチケット作成のコストとしては高くなってしまいます。そのため、入場券等には貨幣のような偽造防止技術の導入が進んでいませんでした。しかし今回実用化した「応力発光印刷」は、「半券を切る」という通常の作業内での真贋判定を可能にします。

気になるお値段ですが、DNPによると印刷コストは通常の10%増程度に収まる予定です。今後は通常の商業印刷物にも間口を広げ、読者を楽しませるアイキャッチ等として幅広く活用されることが期待されます。