『地溝油』というものを、みなさんはご存知だろうか。中国で作られている極めて低質で人体に有害な再生食用油のことである。過去に死者も出しているこの危険な油を、食用ではなくバイオ燃料に用いようという研究がボーイングと中国COMACの共同で進められているというのだ。

ボーイングは現地時間10月22日、中国COMAC(中国商用飛機有限責任公司)と共同で、廃油(地溝油)から持続可能なジェット燃料(バイオ燃料)を生産する実証設備を開設したと発表した。年間生産量は18億リットルを見込む。

地溝油とは

地溝油が作られる過程

マンホールの蓋を開け、下水道内の黒く濁り、赤みを帯びたのり状の物体を掻き出す役割の者がおり、毎日一人当たり桶4杯くらいを収集する。それを一昼夜かけて濾過した後、加熱、沈殿、分離など複数の工程を経て、再生食用油に仕上げる。悪臭を放っていた物質は、これでほとんど無臭になるという。ただし新品の食用油に比較すれば、その色はどす黒く一目で判別できる。
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製造過程の動画をご覧になればおわかりになるが、地溝油は『下水油』とも呼ばれる通りに排水溝や下水溝にたまった油を元に製造されているのだ。精製も動画を見る限り十分なものとはとても言えないこの油が、中国の一部の店では食用として使用されているという。油の状態ではひと目で純粋な油と見分けが付くらしいが、無臭であるために調理された食品に地溝油が使われているかを判別することは難しいだろう。このような油を用いた食品を口にして、人体に害がないわけがない。

地溝油を使うことは、中国でも厳しく禁じられており、死刑になる場合もあるという。2011年9月には地溝油を製造、販売したとして32人が逮捕される事件も起きている。それでも地溝油が作られるのは、この油は下水の油を使っているので材料費はかからず、食品メーカーでなくとも作ることができ、生産日などあってないようなものなので、通常販売されている食用油よりもずっと安く手に入れることができるため、地溝油を求める人が存在しているからだ。地溝油を作ることで生計を立てている人の中には普通のサラリーマンよりも稼いでいる人もいるというのだから、いくら禁じられても地溝油の生産をなくすことは難しいのだろう。

だったら燃料にしちゃえ

ならば、地溝油を食用以外に用いればいい。そうなれば、地溝油を作ることで暮らしている人々は逮捕に怯えずに製造を行うことができるようになるし、消費者は食事で地溝油を摂取するのではという不安から解放されることになるだろう。今回の共同研究は、有害な食用油から有益なバイオ燃料へと変える画期的な試みなのだ。

バイオ燃料とは

バイオ燃料(バイオねんりょう)とは生物体(バイオマス)の持つエネルギーを利用したアルコール燃料、その他合成ガスのこと。石油のような枯渇性資源を代替しうる非枯渇性資源として注目されている他、二酸化炭素(CO2)の総排出量が増えないと言われていることから、主に自動車や航空機を動かす石油燃料の代替物として注目されている。

現在、車に用いられているガソリンや飛行機に用いられているジェット燃料は石油を原料としたものが主である。しかし、石油資源には限りがあり、排出されるCO2も地球温暖化の原因として問題視されている。バイオ燃料は資源に限りがある石油燃料に代わり、穀物から作成したエタノールや植物油などを原料として用い、CO2の排出量も削減できるとして研究が進められているのだ。バイオジェット燃料も様々な研究がすでに行われ、試験飛行なども行われている。

いいことばかりでもない

バイオ燃料の研究を進めるにあたっていくつかの問題がある。現在のバイオ燃料の主な材料はトウモロコシやじゃがいもなどといった食物や植物が多いため、食用以外の燃料として使用する分まで確保してそれらが生産されているわけではないことから、それらの値段が高騰してしまう事態を引き起こしている。

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アメリカでは、1年に生産されるトウモロコシの3割がバイオ燃料に使用されるため、不作になれば食用に必要なトウモロコシが不足して価格が上がってしまう事態になってしまう。2012年の干ばつによるトウモロコシの値段高騰の際にはトウモロコシをバイオ燃料に用いることへの非難の声もあがったという。

多くの材料の確保が必要

ジェット燃料として使用するには穀物から製造されたエタノールではパワーが足りないという問題もある。ジェット燃料には非常に高い発熱量が求められ、現在の主なバイオ燃料ではそれには足りず、いままでバイオジェット燃料として使用が試みられたのはココナツ油やナンヨウアブラギリ油などがあった。ミドリムシによってバイオジェット燃料を作成しようという試みも行われているが、民間航空機をまかなうためには中国地方と同じくらいの広さを持った培養地が必要だろうという。今後バイオ燃料が石油燃料に取って代わるためには、大量の材料の確保が欠かせない課題なのだ。できるだけ低コストで、一度何かに使用した後のゴミなどといったいままでは廃棄するしかなかったものなどが望ましい。そういう意味でも今回着目した地廃油はまさに打ってつけの材料なのだ。

人体に有害とされている地溝油が、この研究によって未来のジェット機を支える存在となり、業者達は刑罰に怯えることもなく白昼堂々、精製が可能となるのだろうか。両社はまず地溝油の精製についての研究を行うとのこと。

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地溝油の原料を集める人

彼らがエリートになる日も近い?

image by

JICA

REFERENCE:

Aviation Wire

Aviation Wire

ボーイング、下水油からバイオ燃料 中国COMACと共同研究
http://www.aviationwire.jp/archives/48110