9月24日、ブルームバーグはロンドン・プリンセスグレース病院で行われたナノナイフによるすい臓がんの手術動画を公開しました。

 
   

すい臓がんは早期発見が難しく、治療も困難なため致死率が高いことで知られています。スティーブ・ジョブズもこのがんで亡くなりました。ナノナイフとは、がんの部分に複数の電極針を刺して電流を流すことで、針の間にあるがん細胞を死滅させる治療法です。抗がん剤の副作用や手術による長期入院が無い、安全性の高い治療法として普及が期待されています。

セットアップ

患者が手術室のCT内に寝かされています。すい臓がんを取り囲むように電極針を刺すために患部をCTでモニタしているのです。医師はすい臓の各断面を見ながら、どのように電流を流そうか検討しています。

患者は全身麻酔を受けている他、通電による筋肉のけいれんを抑えるために筋弛緩剤を投与されています。スタッフが心電図をモニタしていますが、これは電流を流したときに患者が心臓マヒを起こさないよう、心臓が反応しないタイミング(不応期)で電流を流すよう医師に伝えるのです。

 01-operation      

続いて患者の腹部に針が刺されています。これがナノナイフです。ナノナイフを構成する電極は青と白に色分けされていて、青い電極の先端は赤く光っています。刺された針の部分は銀でコーティングされています。銀イオンには殺菌作用があることが知られていますが、その根拠には諸説あります。ともあれ、銀電極の電流は他の電極よりがん細胞を多く死滅させることができるようです。

 02-electrodes      

施術位置の決定

次はすい臓のCT画面です。2つのカーソルを固定すると電流経路が表示されます。CT画面を見ながら、医師はすい臓がんに電流が流れるように電流経路を調整します。P極と他極の場所を決め、電流を流してナノナイフ手術を行います。

 04-CT zoom      

ナノナイフの原理

以下はすい臓がんと電極の模式図です。今回のナノナイフ治療では、2分の間に3000Vの電流を19回流しました。電極針の太さは約1mmで、血液を採取するときとだいたい同じ太さです。医師は針先端の銀部分の長さを、がんの大きさにより調節します。

 05-cancer and needles      

ナノナイフに近い治療法として、ラジオ波焼灼術があります。これは挿入した電極針にラジオ波(約450kHzの高周波)を流し、周囲に発生させた熱でがんを焼いて取り除いていました。しかし熱の場合、主に繊維からなる臓器、血管、胆管(間質と総称します)なども壊れてしまうため、治療できる場合が限られていました。しかしナノナイフは細胞膜に穴をあけて細胞だけを死滅させるため、繊維でできている間質に影響を与えません。そのため治療適応範囲が広がり、術後の回復も早い治療法なのです。

ナノナイフは欧米での臨床応用が進んでおり、2008年から現在までに欧州で約1000例、米国で約2500例の治療が行われています。残念ながら日本は遅れており、今年2月に東京医科大学病院が初めて肝がんのナノナイフ治療に成功したところです。今後は施術数を増やし、知識・経験の蓄積や保険の適用などが期待されます。